ザ・サウス・ブロンクス・ストーリー / カルロス・エンリケス
過去20年にわたり、ジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラ(JALCO)の首席ベーシストとして活躍してきたカルロス・エンリケス。
JALCOのマエストロであるウィントン・マルサリスは彼を高く評価し、自身が率いるアンサンブルに積極的に起用してきた。
そんなカルロスのリーダーアルバムは、これが3作目。
『The South Bronx Story』というタイトルが示す通り、このアルバムはサウスブロンクスでプエルトリコ系として育ったカルロス自身の、いわば自叙伝的な内容になっている。
サウスブロンクスは、ティト・プエンテ、エディ・パルミエリらのレジェンドを生んだ地域であり、カルロスももちろん、彼らから大きな影響を受けている。
このアルバムで示されているのは、いわばアフロ・ラテン・クラーベとジャズ・スウィングの融合だ。
演奏はとにかく、情熱的でエキサイティング。
アドレナリン全開と思えるようなソロが随所にある。
このアルバムはまた、政治的なメッセージを含んでいる。
サウスブロンクスは、1970~80年代にかけては、非常に問題の多い地域だった。
現在ではかなり落ち着いているらしいが、カルロスはいま改めて、かつての問題を教訓として見つめ直そうとしているのかもしれない。
例えば「Boro of Fire」は、1970年代に多発した住宅火災のことで、その多くは、保険金で利益を得ようとした家主が起こしたとされる。
また「Moses on the Cross」は、都市計画家ロバート・モーゼスによって考案され、しばしばこの地区の人種・階級による分離の象徴として挙げられるクロスブロンクス高速道路を指している。
こうした背景を知らなくても、演奏を楽しむことはできるけれど、知っていれば聞こえ方が違ってくるのも事実だ。
Carlos Henriquez(bass)
Terell Stafford (trumpet)
Michael Rodriguez (trumpet)
Marshall Gilkes (trombon)
Abdias Armenteros (sax)
Marcos Torres (conga)
Jeremy Bosch (flute)
Robert Rodriguez (piano)
Obed Calvaire (drums)
<了>
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