ヒデミ / パトリック・シロイシ
パトリック・シロイシはロスを拠点に活動している日系4世のアメリカ人サックスプレイヤー。
タイトルの“ヒデミ”とは祖父の名前だそうだ。
アルバムジャケットの写真は、彼の父と祖父である。
これまでにも彼は、自分へと連なる家族の系譜をテーマに作品をつくってきた。
前作『Descension』は第二次世界大戦時の日系アメリカ人の強制収容所をテーマにしたもので、今回の『Hidemi』もその延長線上にある。
祖父はその収容所に囚われていたからだ。
『Descension』はエフェクターで歪ませたサックスの鋭角的な音が、かなりシリアスで印象的だった。
今回の作品は、そうした歪んだ音は影を潜め、サックスの多重録音によるオーケストレーションを軸にしている。
アルト、バリトン、テナー、ソプラノと、あらゆるサックスを駆使。
サックスもこれだけ多様に響くのか、とその巧みなリバーヴなどに感心させられるが、テーマがテーマだけに、紡がれる音はスリリングで、組曲的展開の最後まで聞くものに緊張を強いる。
一方で、日本人の我々にとって、ふと懐かしさや素朴さを覚える瞬間があるのも確か。
ただ、それは彼に関する予備知識があるからで、ゼロベースで聞いて、これを日本ぽいと思えるかどうかは、なんともいえない。
シロイシ自身のルーツをたどることが、この作品のテーマだが、コロナ禍や人種差別も当然、視座に入れてのものだろう。
後に2021~22年のジャズシーンを語る上で、重要な作品になりそうな気がする。