2022年6月25日、NHK-FM『今日は一日”山下達郎”三昧2022』より書き起こし。
聞き手は杉浦友紀アナ。
(杉浦)達郎さんはいろんなアーティスト、ミュージシャンに楽曲提供されていますけども。今回、KinKi Kidsに。
(達郎)KinKi Kids、デビュー25周年なんで、僕のところにお鉢が回ってきました。
(杉浦)久しぶりですね?
(達郎)久しぶりですね。
(杉浦)『Amazing Love』という曲ですが。これはどういう曲なんでしょうか?
(達郎)25周年なんで、明るい曲ということで。キンキの2人が作詞したんです。作詞を2人で共作したの初めてなんですよ。
(杉浦)意外ですね。今まであるのかなと思ってました。KinKi Kidsをはじめ、ジャニーズのアーティストに達郎さん、何曲か書いてますけど。アイドルに書く曲って何か違うんですか?
(達郎)自分の歌う曲とは違いますからね。その人の特質っていうか、そういうものがあるので。
キンキの場合はアイドル歌謡って言っても、やっぱりもうちょっとこっち側ですから。90年代からですから。
近藤マッチみたいな時代はもうアイドルっていうのは「突進」とか「根性」とかそういう。
あとは僕は女性はほとんどでやってないんだけど、女性の場合は「切なさ」とか「儚さ」とか、そういうようなものなので。
要するに音楽プラスなんかそういう価値観とか。そういうようなものがね。ティーンエイジミュージックなので。
ですけども木村拓哉さんのアルバムに3曲、書いたんですけど、木村くんの場合はいわゆるハードロックが好きなので、割と高い声で歌いたがるんだけど、彼自体は非常にバリトンの声質で、低い声の方がいいんですよ。魅力的なんですよ。
だから「もうちょっと低く歌ってやってみれば?」って。それで書いたんですけど。
それでクロマニヨンズの真島くん、知り合いなので。彼に歌詞を頼んで。面白いコラボレーションができましたね。
(杉浦)じゃあ、その相手の特性みたいなものを見て、認めて作ってるんですね?
(達郎)そうです。だからそれはアイドルに限らず、全部そうですけど。
基本的にはだから得手を伸ばして不得手をリカバーするっていう、それが作家の仕事なので。
僕、どっちかと言ったらそういう仕事をしたかったんですね。作曲家とか、プロデューサーとか、そっちの方が僕は自分では才能があると思ってたんで。自分で歌ってこんなに長くやれるとはもう全く、夢にも思わなかったので。
いつかはそういうスタンスになっていくっていうつもりでいろいろと考えてやってたんですけど、それが今でも役に立ってますね。
(杉浦)『硝子の少年』から25年、経って。
(達郎)早いですね。
(杉浦)本当ですね。私にとっては青春時代のまさに名曲。カラオケでどれだけ歌ったかわからないっていうぐらい歌った曲ですけれど(笑)。KinKi Kidsももちろん歳を重ねて。
(達郎)『硝子の少年』の時の僕の歳になりましたからね。
(杉浦)そうかあ。
(達郎)あの時、彼らは14ですからね(笑)
(杉浦)いかがでしたか?久しぶりに。
(達郎)全然変わりません。本質的には変わらないですね。
まあ、アイドルに関してはいろんな意見がありますけど、とにかく努力してますから。みんな。
(杉浦)私、好きなんですよね。達郎さんが書くKinKi Kidsの曲が(笑)。
(達郎)そうですか(笑)。ありがとうございます。今度の曲明るいです。とっても。
(杉浦)明るい曲。やっぱり25周年というので、めでたいということも含めて?
(達郎)そうですね。
(杉浦)セレブレーションですね。
(達郎)あとはやっぱりお客さん、東京ドームでワーッてなった時のその空気感っていうね。そういうのを想定してあげないと。それはライブハウスの音楽とは違うので。
(杉浦)改めて、山下達郎さんとKinKi Kids。アイドルとミュージシャン、この2組が合体した時の魅力ってなんなんでしょうね?
(達郎)僕にはわかりませんよ(笑)
僕はだからやっぱりそういう時は純粋に作家的な視点で考えざるをえないので。
『硝子の少年』作った時はパッと彼らの歌を聞いて思ったのは、本当はね、その前に『Kissからはじまるミステリー』っていう曲があって、それがシングルなる予定だったんですけど。
それじゃなくて『硝子の少年』になったのは、その『Kissからはじまるミステリー』を作った時点で、もう珍しく、ジャニーズの人の中では2人とも声が濡れてるんですね。その濡れた感じが、あの『硝子の少年』の曲調にしたんですよ。
(杉浦)へえ
(達郎)だから内輪からはものすごいブーイングされて。「暗い、踊れない」って。
それで14の少年2人が不安な目をして人の顔を見てるから「大丈夫だよ。これは君たちが40になっても歌える曲だから」って言って。
(杉浦)実際、歌える曲ですもんね。
(達郎)僕はジャニーズに関してはそのオリジナルのジャニーズからずっと聞いてるので。
オリジナルのジャニーズがすごい好きだったんで、そういう原風景みたいなものが自分の中にあるんですよね。
だから、そういうことで忠実にやればいいんだと思って作ったんですけど。
今回、だから25周年なんで明るい、伸びやかな、そういうのにしたいなって作りました。
(杉浦)まさか『キスミス』が先だとは思わなかったです(笑)
(達郎)あれが本当はデビュー曲のはずだったんです(笑)
(杉浦)知らなかったなー。いろんな秘話がありますね。
(達郎)『硝子の少年』もその前に『ジェットコースター・ロマンス』っていうその次の曲がありますけど、あっちの方を先に出したんですよ。
だけど、向こうの要望が「とにかくナンバーワンじゃなくて、ミリオンが悲願だ」っていうんで。
「光GENJIの『パラダイス銀河』が97万枚。ミリオンが悲願なんだ」ってその時に言われて、「それはないでしょう?」って。
でも、『ジェットコースター・ロマンス』だったらミリオンは行かなかったですよ。
だから「もう1週間、くれ」って言って。それで書いたんですね。
(杉浦)なんでしょうね...このこのアイドルのポップさとは違う、ちょっと歌謡曲の感じとか。
「映画館の席に隠れてキスをする」っていうあの歌詞がぴったりくるような曲調っていうのが。
(達郎)松本さんがああいうのうまいですからね。
(杉浦)なんかミステリアスだし。本当に濡れてるっていう感じって、まさにあの曲から出てるなっていう。
私は10代でしたけど、10代の時聞いてて「なんてセクシーな曲なんだろうな」って思った記憶があります。
(達郎)あれはだから1人っきりでやったんですよ。
ストリングスもあれがすごく、ストリングス・アレンジをした最後の曲なんですけど、あれから先はもうストリングスは不得手なので、あれが最後に1人きりで全部やった曲なんですけどね。打ち込みも全部1人でやって。
(杉浦)それとはまたちょっと印象も違う、今回は明るい曲っていう。ぜひ、その『Amazing Love』を聞いていただきましょう。
(杉浦)聞いていただきましたのはKinKi Kids『Amazing Love』でした。あの、『硝子の少年』のお話を聞かせていただきましたけども。達郎さん自身もセルフカバーされているんですよね?
(達郎)カラオケで歌っています(笑)。
(杉浦)ライブで盛り上がるんですよね(笑)。
(達郎)そういうもんなんですよ(笑)。
(杉浦)前に『ハイティーン・ブギ』と『硝子の少年』を両方歌われた時に、会場が大盛りあがりで。たしかMCで「俺の曲より盛り上がるじゃないか」みたいな話をされていましたね(笑)
(達郎)お客というのはね、わがままなんだよ(笑)。そうやってね、意外なものが、想定外のものが受けるんで(笑)
(杉浦)なので、せっかくなのでセルフカバーの『硝子の少年』を。ベストアルバムの『OPUS』に入っているボーナストラックのUNRELEASED DEMO VOCALですけども。『硝子の少年』を聞いていただきましょう。
<了>