おとのほそみち

行きかふ歌も又旅人也



山下達郎サンデーソングブック 2019年12月1日「食事で棚からひとつかみ」書き起こし

達郎氏による曲の解説部分を書き起こしています。インフォメーションやリスナーからのメッセージは割愛しています。 ネットに音源があるものは張り付けていますが、オンエアされた音源とは異なる場合が多々あります。

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1. RECIPE(レシピ) / 山下達郎
2. HOME COOKIN' / JR.WALKER & THE ALL STARS '68
3. SOUL FOOD / LONNIE YOUNGBLOOD '67
4. FOOD BLUES / BOBBY BARE '80
5.TOO MANY COOKS (SPOIL THE SOUP) / 100 PROOF '69
6. LUNCH HOUR / RUPERT HOLMES '79
7. ORANGE JUICE BLUES (BLUES FOR BREAKFAST) / BOB DYLAN & THE BAND '75
8. ドーナツ・ソング / 山下達郎 '98


先週11月27日に発売になりましたニューシングル「レシピ」
もうお聴きいただきてる方、たくさんいらっしゃると思いますけれども、今日も、たくさんたくさんリクエストいただいております。
発売日直後ですので、もうひと押し。
RECIPE(レシピ) / 山下達郎



 

HOME COOKIN' / JR.WALKER & THE ALL STARS


今日は私が主題歌を担当しています日曜劇場「グランメゾン東京」、これにちなみまして「食事で棚からひとつかみ」。
でもあまり高級食材はでません(笑)もうちょとカジュアルなやつですが。
まずはジュニア・ウォーカー&ザ・オールスターズ。
モータウンを代表するシンガーでもありサックス・プレーヤーでもありますが、たくさんヒット曲があります。「ショットガン」から始まりましていろいろありますけれども、これは1968年、全米R&Bチャート19位、全米チャート44位と、彼の全作品の中ではスマッシュヒットですけれど、人気の高い曲です。
「HOME COOKIN'」家庭料理と訳すんでしょうか。これから初めてみました。


もうひとりサックス・プレーヤー。
この人はジョージア出身ですが、イースト・コーストで活躍しましたロニー・ヤングブラッド。僕の大好きなサックス吹きです。
この人の1967年のシングルでずばり「SOUL FOOD」。アフリカン・アメリカンの伝統料理ですが、この作品の前後のシングルはジミ・ヘンドリックスがギターでフューチャーされていることでたいへん有名です。
SOUL FOOD / LONNIE YOUNGBLOOD

ジミ・ヘンドリックスがエクスペリエンスでブレイクする前にいろんなところで、人のバックとかセッションプレイヤーとしてやっていた時代、このロニー・ヤングブラッドとやっていたセッションを、のちにロニー・ヤングブラッドとジミ・ヘンドリックスというようなかたちで、まとめてLP化されたりしました。

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食事ものは歌詞に重点を置いたものがとても多いので、そうしますと曲だけ聞いてもあまりおもしろくない。歌詞を紹介しつつ何曲かいってみたいと思います。
歌詞の世界ですと、圧倒的にカントリーミュージックのほうが面白いのが多いです。
今日お届けするのはボビー・ベア。
1935年生まれのアメリカでは大変有名なカントリー・シンガーです。
いわゆるアウトロー・カントリーのジャンルに入りますので、ウィリー・ネルソンとかクリス・クリストファーソンの系譜に入ります。
この人にはたくさんヒット曲がありますが、「FOOD BLUES」という曲がありまして、書いているのがシェル・シルヴァスタイン。
この人は絵本作家としても有名で、日本でも『おおきな木』という、2010年くらいに村上春樹さんが訳しまして、ほかにも倉橋由美子さん訳の絵本がたくさんあります。
シンガー・ソングライターというか作曲家としてもたいへん有名な曲がたくさんあります。
最も有名なのが、ジョニー・キャッシュが1970年に出した「A BOY NAMED SUE」スーという名の男、女性の名前をつけられたがゆえに人生が狂ってゆく傑作ソングがあるんですが、これの作曲者です。
このシェル・シルヴァスタインは、ボビー・ベアと組みましてたくさんのヒット曲を出しましたが、この「FOOD BLUES」もたいへんにおもしろい一作です。
歌詞が長いですが、最後までご紹介します。全部聞いていただかないと面白くないので。
 ロージーのレストラン 
 ウエイターがきて「ご注文は?}といった
 店のメニューはとても素敵なものに見えた
 彼が「アドバイスをさせてください」というまで
 彼いわく
 スパゲッティとポテトはデンプンが多すぎて
 ポークチョップとソーセージは心臓に悪いです
 鶏肉、牛肉、子牛にはホルモンがあります
 ラビオリのボウルは死人の食事です
 パンには防腐剤が入っていて
 ハムには亜硝酸塩が含まれている
 ゼリーとジャムには合成着色料
 ドーナツとは距離を置いてパイからは逃げて
 ペパロニピザは確実に死ぬ方法です
 砂糖は歯を腐らせ体重を増やします
 だけど人工甘味料にはチクロが含まれています
 卵にはコレステロール、チーズには脂肪があります
 コーヒーは腎臓を破壊します 紅茶も同様
 魚には水銀、赤身の肉は毒薬です
 塩は血圧を上昇させます
 ホットドッグとボローニャソーセージには致命的な赤い着色料
 野菜や果物には農薬が散布されています
 私は言った「じゃあ何を食えば大丈夫だというんだ?」
 彼は「殺菌されたグラスで少量の水を」と言った
 それから彼は立ち止まり少し考え、
 そして「水には香料を入れないでください
 中に発がん性物質が含まれています」
 私が食べることができるものは何もないと気づいたので
 私はテーブルから立ち上がって通りへと立ち去った
 あれから1ヶ月間食事をしていないが私は元気だ
 なぜなら彼はビール、ウイスキー、女性、
 そして甘い赤ワインについては言及しなかったから
ボビー・ベア、1980年のシングル。
FOOD BLUES / BOBBY BARE

全米カントリー・チャート40位まで上がりました。アメリカンミュージックの懐の深さといいましょうか。

 

今度はR&B。1969年にモータウンのスタッフ・ライター、ホーランド=ドジャー=ホーランドがモータウンを脱退してインヴィクタス/ホットワックスという自分たちのレーベルを作ります。
そこでデビューしたのがワンハンドレッド・プルーフというヴォーカル・グループです。
1970年にアルバム・デビューするんですが、その前の先行シングルとして初ヒットした曲が「TOO MANY COOKS(SPOIL THE SOUP)」。料理人が多いとスープが台無しになる。直訳ですけども。
日本でいうと、船頭多くして船山に登る、みたいなニュアンスです。
この場合はラブソングなので、他の男にお前を渡さない、そういうのを非常に性的なニュアンスで歌っています。
 お前が他の男に愛されるのは我慢ならない
 料理人が多いとスープは台無しになる
 お前の愛は沸騰している
 そこに他の男がスプーンを突っ込んで味見するなんて許さない
 オレのレシピは変えさせない 誰にも変えさせない
そういうニュアンスがずっと続く歌なんですけど、この曲は後にミック・ジャガーがジョン・レノンのプロデュースで録音したんですけれど、ずっとアウト・テイクでブートでしか聞けなかったんですが、ミック・ジャガーのベスト・アルバムでこのテイクが出て人気が出ました。それのオリジナルヴァージョンです。
TOO MANY COOKS (SPOIL THE SOUP) / 100 PROOF

 1970年のデビューアルバムに収録されました。
ちなみにこのグループは、スティーブ・マンチャ(Steve Mancha)というリードヴォーカルの人が非常に人気がありますが、この曲は彼ではなくて他のメンバーのエディ・ホリデイ(Eddie Holiday)という人のリードですが、素晴らしいオケです。
ちなみに「TOO MANY COOKS(SPOIL THE SOUP)」という曲はまったくの同名異曲がありまして、ウィリー・ディクソン(Willie Dixon)のペンになります、チェスのブルースシンガー、ジェシ・フォーチュン(Jesse Fortune)という人が、1963年に出しました曲があるんですが、これとは全く違う曲です。
ミック・ジャガーがカバーしたのは100 PROOFのほうです。

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イケイケでやってるんで少し甘いやつ。でもアップテンポ。
ルパート・ホルムズ。イギリス生まれのニューヨーク育ち。
ニューヨークのおしゃれな感じを一手に引き受けた彼のいちばんヒットしたアルバム、1979年の『PARTNERS IN CRIME』、男女関係のいろんな機微を歌ったザ・ニューヨークという音をしておりますが、ここから「Escape」という全米ナンバーワンが出ましたが、この中に入っている「LUNCH HOUR」という曲があります。
これは昼下りの情事といいましょうか、そういうものがテーマで
 彼女はランチに1時間 いざとなれば延長することもできる
 彼とホテルで会うのさ あまり馴染みのないところで
 2時15分すぎまでいることは絶対ないから
 彼女は念入りに化粧を直し髪をとかす
 そしてタクシーをつかまえて三番街に戻る
 3時15分前には友達がよってきている
 まあ、ランチはさぞおいしかったでしょうね
これが1番。
2番はカナダ航空のスチュワーデスと不倫している男の話。
 彼はいつも車に乗る ブルックリンからケネディ空港まで
 モントリオールからのフライトに間に合わせるために
 そして毎日待っているカナダ航空のゲートの外で
 彼女はセントポールで乗り換える スチュワーデスだから
 彼女が着くと大急ぎでそこを抜け出し
 家と呼んでいるハイパークラブモーテルに向かう
 そしてまたターミナル2にとんぼ返り
 今度は夫に会うため
 夫はローマ発便の航空士
これが非常に複雑なアレンジで歌われまして、頭がうにうにになります。
1979年のアルバム『PARTNERS IN CRIME』から。
LUNCH HOUR / RUPERT HOLMES



こんどはボブ・ディラン&ザ・バンド。
名高き、1975年に出ました『THE BASEMENT TAPES』。
1967年にザ・バンドが借りていた有名なビッグ・ピンクというウッドストックの家の地下室でボブ・ディランとともに色々と録音されたものが、75年に『THE BASEMENT TAPES』というかたちで発表されました。
この中に入っています、リチャード・マニュエルのペンで、彼の歌になります「ORANGE JUICE BLUES(BLUES FOR BREAKFAST)」朝食のためのブルース。
歌ってますけど、オレンジジュースも出てこなければ、ブレックファーストという言葉も出てこない、いかにもその時代らしい一曲です。
男女の仲がうまくいかなくなって、その家を出ていくという男の歌です。
 今朝はなかなか起きられなかった
 もう1ヶ月以上そんな状態が続いている
 君はなんでも自分のやりたいようにやってきた
 でも今こそ言わずにはいられない
 僕はこのドアから出ていくよ
そういう男の歌です。
リチャード・マニュエルなので真実味がすごくあります。
ボブ・ディラン&ザ・バンドのクレジットですが、実質的にはバンドの演奏といえます。
バンドのファーストアルバムがCD化されたときに、これのデモがボーナス・トラックで入ってまして、そっちでもよかったんですが、バンドが厚いので。これダビングされてますからね。
ORANGE JUICE BLUES (BLUES FOR BREAKFAST) / BOB DYLAN & THE BAND



というわけで今日は『食事で棚からひとつかみ』でした。
私の食べものネタというと、これくらいしかございませんので、今日はこれで。

私の1998年のアルバム「COZY」から、お馴染み「ドーナツ・ソング」
ドーナツ・ソング / 山下達郎

<この項おわり>