ポール・マッカートニー自身の監修のもと制作される”ポール・マッカートニー・アーカイヴ・コレクション”は2010年にスタート。
シリーズ第1弾としてリリースされたのはポール・マッカートニー&ウイングスの1973年の重要作『バンド・オン・ザ・ラン』だったが、その13番目となる最新カタログが2020年7月31日にリリースされた。
1997年作の『フレイミング・パイ』である。
プロデュースは、ポールとジェフ・リンとジョージ・マーティン。
リンゴ・スター、スティーヴ・ミラー、リンダ・マッカートニー、そして息子のジェイムズなど気心のしれたメンバーとともに制作され、決して派手な曲はないが名曲ぞろい。
リリース当時の評価は高く、今でもポールの代表作の一つに数えられる。
このアーカイヴ・コレクションは、スペシャルな内容と仕様が売りで、今回も複数のタイプがあるのだが、基本とおぼしきは、5CD+2DVDという構成の《デラックス・エディション》。
ディスク1=アビー・ロード・スタジオで最新リマスターされたオリジナルアルバム
ディスク2=収録曲のホーム・レコーディング集
ディスク3=スタジオでのデモ音源、リハーサル音源など
ディスク4=アルバム未収録のシングルB面曲など
ディスク5=ポールが自身のスタジオを紹介したトーク
DVDにはドキュメンタリー『ザ・ワールド・トゥナイト』の映像のほか演奏シーン、舞台裏などが収録。
さらにリンダ・マッカートニーの未発表写真や、アルバム参加者たちへの最新インタヴューを含む128ページのブックレットなどがついている。
おねだん¥41,800 (税込)。
うーん、まあ、コアなファン向けだから、良しとしましょう。
ちなみの上記のセットに、さらにLP4枚が加わったコレクターズ・エディションもあって、こちらはなんと¥140,800 (税込)である。
ありがたいのは、CDのディスク1~4がストリーミングで聞けることだ。
フィジカルを買う前に試聴できるし、これで十分というライトはファンも多いだろう。
こうした企画盤に収められているデモ音源というのは、いうまでもないが玉石混交である。
そもそも公式に発表される予定がなかったのだから、完成度が今ひとつなバージョンがあるのは当然で、声高に文句をいう筋合いではない。
しかし今回のデモ音源は、きっちりリマスターされているせいもあってか、なかなか聴きごたえがある。
なかでも耳を奪われたのは「Beautiful Night (1995 Demo)」
リリースの2年前のデモということだろうか。
これは実にポールらしい美しく品のあるバラードで、オリジナルはバンド編成でストリングスも入っているのだが、このデモではアコースティックピアノだけで歌っている。
まさかピアニストが別とは考えにくいので、ポールの弾き語りだろう。
音がシンプルな分、メロディの美しさが際立ち、ポールの甘く伸びやかな歌声も素晴らしい。
実は、もう一つ別に「Beautiful Night (feat. Ringo Starr) [Run Through]」というバージョンも収められている。(ネットに音源はありません)
これはそのタイトル通り、リンゴ・スターが参加していて、演奏はピアノとドラムだけ。
これはこれで味わい深い。
こういう作品に出会えるのだから、やはりこうしたボックスセットのチェックは欠かせない。
とてもフィジカルを全部は買えないけれど......
<了>