おとのほそみち

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山下達郎サンデーソングブック 2021年8月15日『ARTISAN』30th記念リマスター盤 特集

達郎氏による曲の解説部分を書き起こしています。インフォメーションやリスナーからのメッセージは割愛しています。

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1. アトムの子 / 山下達郎
2. ターナーの汽罐車 / 山下達郎 
3. 片想い / 山下達郎 
4. NEW YORK'S A LONELY TOWN / THE TRADEWINDS 
5. TOKYO'S A LONELY TOWN / 山下達郎 
6. 飛遊人 / 山下達郎 
7. SPLENDOR / 山下達郎 
8. MIGHTY SMILE / 山下達郎 
9. "QUEEN OF HYPE" BLUES / 山下達郎 
10. モーニング・シャイン / 山下達郎 

 

ARTISAN (30th Anniversary Edition)

ARTISAN (30th Anniversary Edition)

  • アーティスト:山下達郎
  • ワーナーミュージック・ジャパン
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私、あいかわらずスタジオ仕事をしております。
曲はできてるんですけど、トラック・メイキングがですね、やっぱり10年ぶりにアルバム作りますと、いろいろと変わったことが、変化がたくさんあります。
いろいろ、そういうもので「う~っ」とやっております。
家でも「う~っ」でございますが。

てなわけで、本日のサンデーソングブックは、今週18日に発売になります、91年に発表いたしました私のオリジナルアルバム、10枚目の『ARTISAN』
これの30th Anniversary Edition、30周年記念盤のご紹介をさせていただきたいと思います。
山下達郎のリスナーの皆様にはおなじみのアルバムでございます。
30周年記念でリマスター、ボーナストラック付きで、ライナーノーツ、書下ろししました。
30周年記念バージョン、いよいよ今週の水曜日に発売でございますので、これのご紹介をさせて頂きたいと思います。

私自身、ずいぶんたくさん作ってきましたけれども、その中でも、わりと気に入ってるアルバムでありますので。思い入れが強いというのもありますので。
いろいろとご紹介をさせていただけたらと思います。


『MELODIES』『BIG WAVE』あたりは30周年記念で出しておりましたけれども、『POCKET MUSIC』「僕の中の少年』は、ちょっとずれてしまいました。
去年、2枚まとめてリマスター盤、発売になりましたが、ようやく追いつきまして(笑)。
『ARTISAN』30周年バージョン。
このサンデーソングブックが始まったのが92年でありまして。
この『ARTISAN』の直後でありましたので。
今でもですね、頭とエンディングテーマは、この『ARTISAN』からの収録曲になっておりますので、番組とも非常に縁が深い一枚でございます。
というわけで1曲目に入っております、おなじみ「アトムの子」

アトムの子 / 山下達郎

 

で、この番組、サンデーソングブックの一番冒頭に、この「アトムの子」のイントロが入っております。
先ほど申し上げましたみたいに、ちょうど番組のスタートする直前だったので「アトムの子」がかかってたんですけども。
29年たっても、まだかかっているというしぶとさでございます。

 

「アルチザン」というのは「職人」という意味でありまして。
当時、80年代の終わりから、ミュージシャンのことを「アーティスト」と呼ぶような風潮が出てきまして。
「アーティスト」というのは、もともとは芸術家というようなニュアンスでありますけれども、なんかそういったミュージシャンのことを「アーティスト」と呼ぶようになりまして。
ミュージシャン自身がですね「私たちアーティスト」と、それ、すごく僕、抵抗がありまして。
それイヤだなって。
なんかこう文化人志向みたいなのが、すごくイヤで。
じゃ、敵がアーティストなら、こっちはアルチザン。
というようなもので(笑)思いついたのが『ARTISAN』というタイトルであります。
寡黙な、そうした技術者というか、そういう人たちへの尊敬の意味を込めまして『ARTISAN』というタイトルにしました。

 

この『ARTISAN』というアルバムは、さんざん曲をかける時に、いろいろなご説明もしていましたし、あと今回のリマスター盤は曲目解説もアルバム解説も、結構こまかくご説明してるので、細かいところは、そちらの方をご覧いただきたいと思います。
このアルバムに対する思い入れというのが、結構詳細に書いてございますので。

「アトムの子」についても、この30年間言い尽くしてきたんですけども。
手塚治虫さんがお亡くなりになったのは1989年で、そこから手塚さんの作品を読み直すなかで、自分の幼少の記憶と非常に密接に結びついてきまして。
そのときに出たイメージというのが「我々はアトムの子どもだ」というイメージでありました。
それで「アトムの子」というタイトルで曲を作りたくなって(笑)
作りたくなったんですけども、アルバム締め切りの10日ほど前の話で。
突貫工事でガァ~てやって作りまして。
やればできるじゃないかと言われました(笑)。
そういう一曲でございます。

 

2曲目が、おなじみ「さよなら夏の日」
1991年、シングルとして発売された曲でございます
この曲も、すっかりおなじみでございます。
これも30年間、いろんなことを申し上げてまいりましたけれども、いわゆる夏の終わりのイメージとジョブナイルと言いましょうか、自分の青春の終わりといいましょうか、それをオーバーラップさせた曲でありまして。
自分では、けっこう気に入った曲であります。
で、今日は、「さよなら夏の日」は、また夏の終わりにかけるので、今日はBGMで聴くだけです(笑)すいません。

 

この『ARTISAN』というアルバム、一番大きな特徴というのは、ほとんど一人っきりで作ってるアルバムです。
いわゆる広義な意味での「テクノ」のアルバムであります。
自分で打ち込んで、シンセサイザーの音色をすべて自分で作って、一人っきりでトラックを作っております。
ギターソロが何曲かありますけれども、ギターソロもすべて自分で弾いているという、前代未聞のアルバムなんですけども。
そういう意味では、最も個人的といいましょうかパーソナルな色合いが濃く出たアルバムでありまして。
ですので、この「アトムの子」にしろ「さよなら夏の日」にしろ、非常に個人的な、詩の世界は、個人的な思い入れというのが、強く出ているアルバムで。
ですので、自分ではすごく気に入った一作であります。
「さよなら夏の日」は、そういうわけで、また後日という感じであります。


3曲目に入ってる曲も、これも全く一人で作ってる曲なんですけれども。
バブルの直後に作ったアルバムなので。
80年代の、そうしたバブルの、なんて言いましょうかワサワサした感じというのをですね(笑)
また抵抗感みたいなことが曲調によく出てる、と自分では思ってるんですけれども。
青山に、外タレのライブをやっていた、いわゆるカフェバー、パブといいましょうかそういうところがありまして。
そこにドラマティックスを観にいったんですね。

で、終わって友達と一杯飲んでおりましてですね、トイレに行きたくて行きましたら、トイレというのは、だいたい奥まったところですね、廊下みたいなところを通って行くんですけども。
そこにですね、女の子が一人、うずくまって泣いてるんですね。
バブルの時代ですから、いわゆるワンレン、ボディコンの子なんですけども。
それが、すごく寂しそうな、たたずまいと言いましょうかですね。
それで泣いてて、それがすごく印象に残っておりまして。
それで、ひらめいたのが「ターナーの汽罐車」という曲で。
そういうような場所で、男女の倦怠と言いましょうか、そういうものを歌った歌であります。

それの小道具として登場するのが、イギリスの風景画家ジョゼフ・ターナーというたいへん有名な人の描いた代表作であります『雨、蒸気、速力』
非常に朦朧とした絵なんですけど、僕の大好きな絵なので、これを小道具にもってきまして、作りましたのが「ターナーの汽罐車」で。
これは、はじめはドラムとベースと、普通のリズムセクションで録ったんですけど、ぜんぜん耽美的な感じが出ないので。
ドラムマシーンとシンセベースと、自分のアコースティック・ギターと、いわゆるコンピューター・ミュージックとして仕上げた曲でありますが、ピアノソロだけは難波君に頼みまして。
この難波君がね、いいピアノソロで(笑)
大好きなテイクができました。
ライブでフルメンバーでやったことは、ほとんどないので。
最近は3人ライブで、よくやっております。1曲目にやっております。

ターナーの汽罐車 / 山下達郎 

 

4曲目は「片想い」という曲ですけれど、これも、この番組で5月になりますと、かける曲ですけれども。
先ほど申しましたみたいに、一人で全部作ってるアルバムなので、いわゆるコンピューター・ミュージックとしてどう構築するかっていうことを一生懸命考えて作った曲であります。
なので色合いというか、そういうものがですね、自分ではとっても気に入ってる曲で。
若いときに、女の子に告白できないとか、そういうもどかしさみたいなものを。
私、信じてもらえないでしょうけども、すごくシャイな人間だったので。
そういう思い出を、35,6の時に引っ張り出して作った「片思い」
今聴くと、声が若いですね。35,6ですからね。

片想い / 山下達郎 

 

このアルバムには2曲カヴァーが入っております。
この頃は竹内まりやさんのアルバムと並行して、毎年、私、竹内まりや、私。
そういう感じで作っておりましたので、曲がなかなか大変なので、そういう時は、カヴァーに助けてもらおうという。
で、やりましたのがトレードウィンズ。
1965年のヒット「New York’s a Lonely Town」という、ピート・アンダースとヴィンセント・ポンシアという二人のソングライター・チーム、サンデーソングブックでも特集したことがありますけれども。
この二人が作りました、いわゆるサーフィンホットロッドのスピンオフというかもじりでありまして。
ニューヨークにはサーフィンがない寂しい街だという、そういう歌でありますが。
それを、イギリスのデイヴ・エドモンズという人がですね「London’s a Lonely Town」という替え歌にしまして。
それを、私、萩原健太さんとお茶を飲んでるときに、「じゃあ、Tokyo’s a Lonely Townがあってもいいじゃないか」と、それを作ったらどうかと、そそのかされて(笑)
「Tokyo’s a Lonely Town」を作りました。
なので、まずはトレードウィンズのオリジナルバージョンを、ちょっとだけ聴いていただきましょう。

NEW YORK'S A LONELY TOWN / THE TRADEWINDS 

これを替え歌にしまして「Tokyo」に置き換えて作ったのが「Tokyo’s a Lonely Town」

TOKYO'S A LONELY TOWN / 山下達郎 


この『ARTISAN』というアルバムはですね、はじめてのCDオンリーのアルバムでアナログ盤が当時出ませんでした。
もう完全にアナログがCDに凌駕された時代でありまして。
ですので今回初めてアナログ盤を出すことになりました。
いつものように重量盤の12インチ仕様であります。
ですので、音がいいので。
特にこの「Tokyo’s A Lonely Town」、そうしたウォール・オブ・サウンド風のヤツはですね、アナログのそうしたメディアで聴いていただくと、ものすごく、また違ったテイストで聴こえます。
ぜひアナログ盤でお楽しみいただければと思います。


初CDオンリーなんですけれど、でもやっぱりアナログ盤のA面B面というテイストを、どうしても残したくてですね、6曲目に入れましたのが、短い曲なんですが「ヒューマン」という、飛遊人と書いて「ヒューマン」
ANAの、全日空のCMに使った曲にイントロを付けた、これがA面B面の、なんて言いましょうか、転換のイメージで作りました。

飛遊人 / 山下達郎 


この『ARTISAN』のアルバム、ほとんど一人きりでやってるものなんですけれども、1曲だけ、リズムセクションで演奏している曲が、精神的B面の1曲目、7曲目に入っております(笑)
「SPLENDOR」という曲であります。
ちっちゃい頃、星を見るのが好きだったので。
田舎へ行って星空を眺めておりますと、空から、なんか降ってくるような感じがいたしまして。
そのイメージで作った、SFチックな一曲でございます。

自分の作品の中で異色の一曲であります「SPLENDOR」
『ARTISAN』が出たときのツアーで一度だけやったことがありますが。
これやりたいんですけど、なかなかチャンスがありません。
頭数が多いので(笑)ライブでなかなかやることが。
次のツアーでやろうかなとは思ってますが、わかりません。

SPLENDOR / 山下達郎 

 

この次の曲、8曲目になりますね。「MIGHTY SMILE」という一曲ですが。
いわゆるモータウンビートなんですけども、これも普通にリズムセクションでレコーディングしてみたんですけど、この時代ですと、なんか、やっぱり使い古された感じと言いましょうかですね。
そういう感じがありましたので、やはりコンピューターでですね、仕上げると、何とんなく普遍的なもの、そう言う感じになり、自分でもわりと気に入ってる曲でありました。

MIGHTY SMILE / 山下達郎 

 

この『ARTISAN』『僕の中の少年』あたりから使い始めた、RolandのD-110という音源モジュールが、これが、なかなかの優れものでありまして。
このアルバムは、それをフルに使って、一人でシコシコとですね、打ち込んで作っておりますが、それの典型は、先ほどお聴きいただいた「片想い」と、それから、この次にお聴きいただきます9曲目に入っております「 “QUEEN OF HYPE” BLUES」という。
いわゆるファンクものであります。
これも、ほとんど100%、D-110一台で構築しているんですけれども。

このアルバムを作ったときには、いわゆるバブルの時代でありまして。
バブルの時代の、なんて言いましょうかね、雰囲気というのが、全然ダメで。
特に「3K」きつい、汚い、危険。
そういうようなキャッチフレーズのいい加減さとか、そういうのが、とってもイヤで。
表面的なヤラセと言いましょうかですね、オーバー・プロモーションと言いましょうかですね、誇大広告と言いましょうか、そういうようなものが、どうしてもなじめなくて。
そういう空気を反映した一作で、音源モジュールにミックスして、いろんな変な音も作れるので、そういうのを利用して作った一曲であります(笑)

 "QUEEN OF HYPE" BLUES / 山下達郎 

 

自分では、けっこう気に入ってるんですけど、時々こういう曲をやると「こういうの嫌い」とか言われます。
『FOR YOU』っていうアルバムに入っております「HEY REPORTER!」も同じような感じであります。

この次に入っておりますのが、先週お聴きをいただきました「ENDLESS GAME」なので、今日は、お聴きをいただきません。

というわけで駆け足で、55分で11曲かけられませんでした(笑)
ぜひともCDでお聴きいただければと思います。
あとはアナログが出ますので。


最後はですね、この番組のエンディング・テーマで、これも、イイや(笑)
でも、ほんとにサンデーソングブックと『ARTISAN』が密接だというのはですね、30年ぶりに紹介して痛感しました。
今後とも寄り添っていくのかなと。
「それでは、みなさんよろしくお願いします」だと、なんか締まりが悪いので。
お時間までボーナス・トラックの「モーニング・シャイン」

モーニング・シャイン / 山下達郎

 

ARTISAN (30th Anniversary Edition)

ARTISAN (30th Anniversary Edition)

  • アーティスト:山下達郎
  • ワーナーミュージック・ジャパン
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<了>