おとのほそみち

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山下達郎サンデーソングブック2025年7月20日『「ポケット・ミュージック」アナログ盤・カセットテープ再発記念』

番組中の曲紹介のコメントを一部要約して記載しています。

 

1. 土曜日の恋人
2. ポケット・ミュージック
3. MERMAID
4. 十字路
5. メロディー、君の為に
6. THE WAR SONG
7. シャンプー
8. ムーンライト
9. LADY BLUE
10. 風の回廊(コリドー)


今日は「ポケット・ミュージック」の特集。
5年前、2020年にCD、それからアナログも再発しましたけれども。
1986年当時のようにですね、1枚もののアナログLPで再発するのは実にそれ以来ですので、39年ぶりになります。
なんかもう恐れ多いという感じがしますが。
でも、自分の作品でございますので、色々すごく苦労した作品でもありますので。
今日は、全10曲を色々ご託を述べながらお聴きいただきます。


「ポケット・ミュージック」もう本当に色々と語り尽くしておりますけれど。
1980年代の中期にですね、音楽の作り方が激変しまして。
まあ、80年代の初めから始まっているんですが、3つの大きな変革があります。
なんと言いましても、まずはデジタルレコーディング。
それまでアナログのテープに録音していたのですけども、デジタル、音をデジタル化して録音するという、デジタルレコーディングというの始まりまして。
それと同時に、コンピューターミュージック。コンピューターを使って音楽を作るという。
その音を出す道具が、昔はですね、人間が弾いて、ピアノとかギターとか、アナログでですね、人間が演奏してたのを、それをコンピューターで演奏させる。
その演奏させるために作られたものがシンセサイザーっていうですね、音を合成するという。
まあ、なんかじじ臭い言い方ですいませんけど(笑)
シンセサイザー、コンピューター、そしてデジタルレコーディング、この3つがですね、80年代の前半から登場して、音楽に大きな変革が訪れます。

で、スタジオのレコード制作も大きく変換します。
その流れが40年以上続きまして、昔はドラム、ベース、ギター、キーボード、そういうものが集まって演奏していたのが、今は1人の人がマンションの一室で、コンピューターをいじって音楽を作るという、そういうようなところまで変化しております。
そこの一番、皮切りの時代がこの80年代中期という。
ちょうどそこにぶつかったのが、このアルバムの「ポケット・ミュージック」でですね。
それまでのレコーディングのノウハウと全然違うので、すごく迷ってですね、制作するのに10ヶ月以上、費やしてしまいまして。
その時代ですと、3ヶ月とか4ヶ月でアルバム1枚できてた時代ですけれども、そういう時代の流れに巻き込まれて、なんか色々と苦労したので。
この「ポケット・ミュージック」の特集をすると、すぐそういう愚痴ばっかりになりますので、今日はあんまり愚痴を言わずに、作品の方に集中していきたいと思います。

土曜日の恋人

まずお聴きいただきましたのは「土曜日の恋人」
最初に入っております。アナログ盤なのでA面の1曲目でございます。
先行シングルで、曲はとっても気に入ってるんですけども、なかなか思った音像にならなくて。
90年代までミックスを4種類ぐらい作りましてですね。
ようやくまあ、こんなもんかというものができましたが。
リマスターしますと、それよりもまたさらにいい音で聴くことができまして。
こんな今日お聴きいただいたぐらいの音で1986年に聴けていればですね、こんなに愚痴は言わないで済んだんですけれども。

 

A面の2曲目に入っております、アルバムタイトルともなっております「ポケット・ミュージック」。
去年のツアーでも演奏してしております。久しぶりでしたけれども。
今でもアコースティックライブなんかで特にやっておりますが。

ポケット・ミュージック


先ほど、シンセとコンピューターとデジタルレコーディングと申し上げましたけども。
我々の世代ではおなじみですけども、イエローマジックオーケストラがもう全盛の時代であります。
大体ドラムマシンとかシンセベース、そうしたシンセサイザーでリズムセクションを作って演奏するという。
そういうようなものがコンピューターミュージックの基本になっていきますが。
私はその前作の「ビッグウェーブ」までは、なるべくマシンとかそういうものを使わないで、生の楽器でやってまいりましたのですけども。
どうもやっぱりシンセサイザーという音色が、時代の音なので、そこから逃げられないなと。
それからコンピューターミュージックからもなんか逃げられないかなと。
で、いわゆる楽器としてのシンセサイザーだとか、シーケンサーと呼ばれるその楽器を演奏するコンピューター、そういうようなもの使ってなかったんですけども、いわゆる普通のコンピューターは、ずっと前から使っておりましたので。
で、ちょうど、NECの8801というコンピューターで、その楽器を演奏するソフトというのが出ましてですね。
これだったら使えるんじゃないかと、それが1985年のことでありまして。
そっから家で、しこしことですね、一人で、コンピューターミュージックを打ち込みでやりまして、レコーディングを取りかかったのがこの「ポケット・ミュージック」というアルバムですけども。
普通の人ですと、ドラムマシンとかシンセベースで、キーボードとかギターを、上物と言いますけど、そういうのをアナログっていうか、マニュアルプレイでやるっていうのが一般的だったんですけど。
僕、全く逆で、キーボードを主にコンピューターで演奏させて、シミュレートしてですね、ドラムベース、ギターはもちろんですけど、そういうものを生でやるという、普通のアプローチと逆のアプローチしております。
ですので「ポケット・ミュージック」の解説に書いてあるように、デジタルレコーディングで、その上にコンピューターとシンセで演奏したと言ってるんですけど。
実際に、全10曲中ですね、ドラムマシンでやってるのは3曲なんです。
あとの7曲は、生ドラムと生ベースでやってるという、そういうちょっと変則的なアプローチです。

 

A面の3曲目はそんな中で、全面的にコンピューターで打ち込みでやってる曲で。
数年前に書いた曲なんですけど、どうしても生楽器でやるとですね、グルーブが出ないので。
コンピューターは文句言わずにフレーズを弾いてくれるので、無理やりグルーブを作ってくれるので。
そういうところでは、打ち込みというのは非常に助かるなと。
それで作った1曲「マーメイド」
アラン・オデイに英語の詞を頼んで作った曲です。
人魚に恋をして海の底へ行くという、なんか竜宮城みたいな話ですけど。
でも最後には魚と人間は一緒になれない、涙の別れという、そういうような話です。

MERMAID

 

4曲目は、これもおなじみでございますが、梅雨の季節になりますとリクエストが増えます「十字路」。
自分の好きな女の子が他の男の人と雨の中を歩いていく、それを見てしまうっていう、そういう話で。
よくある話ですけれども。
数寄屋橋あたりのそういう空気感ですかね。そういうような感じで書きました。
曲は気に入ってるんですけど、演奏が非常に難しい曲で、まだライブで一度もやったことがありません。
この時代になりますと、なかなかこのライブで再現性が、低くなってくるという。
楽曲志向になってくる、作家志向になってきます。
それだけまあ、自分の曲としては構成が気に入ってる曲です。

十字路

 

A面最後の5曲目、「メロディー、君の為に」。
この1曲はですね、元々映画の主題歌の仕事が飛び込んできて、すごくスケジュールがタイトで、努力したんですけども、結局締め切りに間に合わなくて、向こうがもうとにかく締め切りがカツカツだったんで、間に合わなくて。
ですので、曲だけ残ったので、全然違う詞をつけてやり直した1曲であります。
でも、意外と自分では気に入ってる作品です。

メロディー、君の為に

 

全ての曲が、いわゆるクリック、ドンカマと言いますか、これが入っておりまして。
それに合わせて、コンピューターの打ち込みでキーボードの部分は手引きではなくて全てコンピューターで演奏させております。
アコースティックピアノだけ、生でやっております。
「土曜日の恋人」の難波君、それから「メロディー (君のために)」中西君
これ以外は3人レコーディングであります。
キーボードほとんど全てコンピューターでやってるという、そういうアプローチであります。
どうせコンピューターでやるんだったら、そうやってみようっていう。
まあ、今から考えたら、なんか別に人間でやりゃいいじゃないかと、いうあれですけれども。
この時代のなんて言いますか、趨勢と言いましょうか、色々トライアンドエラーという、そういうようなアルバムであります。

 

1980年代の頭は、冷戦の緊張感が濃い時代でありまして。
そんな中で当時の中曽根総理が、対ソ防衛のために日本を太平洋における不沈空母化するという、そういう発言をなさったことがありまして。
私はそれに非常に衝撃を受けまして書いたのがこの曲です。
今から考えましたら、これは、ま、プロテストソングと言えるんですけど、どちらかというと諦観が強いですね。
なかなか先の展望が見出せないという、ま、どちらかというと、ぼやきに近い歌であります。
でも、40年近くたってもこういう歌が、まだ現実性を帯びているという。
なんともこう情けないというか。そういう感じがいたしますけれども。
作品は作品ですので。
これもキーボードはコンピューターで。
私のギター、ドラム、ベース、青山純、伊藤広規コンビ、大村憲司さんのギターソロという、基本的にはリズムセクション3人でやっております。

THE WAR SONG


B面2曲目の「シャンプー」。
79年にアン・ルイスさんに書き下ろした曲ですけれども、これをでセルフカバーするにあたって、1つ全部コンピューターだけで演奏してみようと。
そうしたテンポコントロールとかそういうようなものも、一種の自分の勉強みたいなもんですけれども、それで仕上げた1曲であります。
ドラムのブラシワークとシンバルワークだけがアナログでやっておりますが、後はすべてコンピューターで演奏しております。
あ、そうか、間奏の土岐君のサックスソロはアナログです。
今だったらあっという間に、こんなぐらいのものは作れるんですけども、なんつってもやっぱ40年近く前だと、これをやるのに何日もかかるというですね。
今本当に便利な時代といいましょうか。
ディスプレイ上でういうテンポコントロールから何から全部できますからですね。
昔はそれ全部数値で打ち込まなければならなかったっていう、そういう時代。思い出してしまう。

シャンプー


1人で全部やってるやつはB面3曲目の「ムーンライト」。
1985年の時代のコンピューターは、まだスピードが遅くて。処理能力が全然なくて。
ちょっと手の込んだことをするとテンポが揺れるんですよね。グルーブがずれると申しましょうかね。
それが、なんかどうやっても治らないという。
悩みまくっていた時に新しいコンピューターが出まして。
8801から9801に変わった途端に嘘のように治ったという。
要するに性能がクロックがアップしたんですけど、そういう時代でありました(笑)
今からだったら笑い話ですけども、まあ、必死な時代でありまして。
曲自体は気に入ってんですけど、そっちの思い出が邪魔する。

 ムーンライト

 

B面の4曲目は、割と大作思考で。
これは「ちゃんとしたリズムセクション」...っておかしいですね、4人でレコーディングをやっております。
アラン・オデイの詩がまたロマンチックな1曲であります。
月の道で僕らも恋をしようって。

LADY BLUE


久しぶりに全部聴きましたけれども、なんか色々思い出してしまって、切なくなったりしますね(笑)
スタジオに毎日朝の3時4時まで入っていたのを思い出します。若さゆえ。
詳しいことはですね、アルバムライナーに書いてありますので
ぜひご一読いただきたいと思います。

というわけで、B面の最後の曲は1985年のシングル「風の回廊(コリドー)」
おなじみの1曲で終わりたいと思います。

風の回廊(コリドー)

 

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  • アーティスト:山下達郎
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