おとのほそみち

行きかふ歌も又旅人也



山下達郎サンデーソングブック2025年6月22日『「BIG WAVE」アナログ盤・カセットテープ再発記念』

番組中の曲紹介のコメントを記載しています(部分的に要約)。

1. THEME FROM BIG WAVE / 山下達郎 '84
2. JODY / 山下達郎 '84
3. ONLY WITH YOU / 山下達郎 '84
4. MAGIC WAYS / 山下達郎 '84
5. YOUR EYES / 山下達郎 '84
6. I LOVE YOU PART 2 / 山下達郎 '84
7. GIRLS ON THE BEACH / 山下達郎 '84
8. PLEASE LET ME WONDER / 山下達郎 '84
9. DARLIN' / 山下達郎 '84
10. GUESS I'M DUMB / 山下達郎 '84
11. THIS COULD BE THE NIGHT / 山下達郎 '84
12. I LOVE YOU PART 2 / 山下達郎 '84

 

BIG WAVE (2025 Vinyl Edition) [完全生産限定] (特典なし) [Analog]

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  • アーティスト:山下達郎
  • ワーナーミュージックジャパン
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5月に『MELODIES』をリリースいたしまして、おかげさまでご好評いただきました。
6月に入りまして、今週25日水曜日に、1984年の私の『BIG WAVE』がアナログとカセットで再発いたします。
ですので、今日は『BIG WAVE』の再発記念で、『BIG WAVE』のお話を先月の『MELODIES』の時と同じようにつらつらと申し上げようと思っておりましたら、なんとブライアン・ウィルソンの訃報が入ってきまして。
なんかこう因縁めいたと申しましょうか、私が『BIG WAVE』やろうっていう時に、そういう情報が入ってきまして、たくさんお便りをいただきました。
で、今日は『BIG WAVE』特集やりますが、来週あたりでブライアン・ウィルソンの追悼特集やってみたいと思います。
でももう、『BIG WAVE』のB面は、ほぼブライアン・ウィルソンのトリビュートみたいな構成ですので、そういうようなことを申し上げつつ

昔からの皆様にはおなじみの1枚でございますけれども、何回もご説明しましたし、CDのライナーにも詳細に書いておりますが。
もともと映画のサントラの仕事が入ってきましてですね、それのために書き下ろした曲を集めたアルバムであります。
で、映画のサントラなんですけれども、いわゆるサーフィンの映画、それから、いわゆるサマースポーツっていいましょうか、そういうようなものを集めたドキュメンタリーなんですけれど。
全曲英語でいくという、そういう企画であります。

で、元々サーフィン・ミュージックが好きなのでA面はそういった感じで。
で、B面をですね、当時、割とビーチ・ボーイズのカバーをやっておりまして、それを中心に行ってみようかと。
かくして全曲英語のアルバムっていう、当時としては割と珍しい形のアルバムができました。

しかもアルバムの、特徴が色々ありまして。
全12曲中9曲はですね、1人多重で、ドラム叩いて、ギター弾いてって、キーボードもやってて、そういうような形で、1人で大部分を仕上げたというアルバムです。
1人多重と言いますと、『ON THE STREET CORNER』というアカペラのコーラスのアルバムも何枚も出しましたが、これの、ま、インスト版って言いますかですね、そういうようなものであります。

後で申し上げますけれども、英語の詞をで私のパートナーでありますアラン・オデイに頼みまして。
当時はネットがないので、カセットとかそういうもんでアメリカとやりとりをして、どんな早くても1週間ぐらいかかるんですよね。
それだと間に合わないので、アルバムの締め切りに。
で、アラン・オデイに日本に来てもらいまして、日本で作詞の作業をしてもらってアルバムを完成させました。

その、アルバムのA面の1曲目に入っております、『BIG WAVE』のテーマ、『The Theme From Big Wave』。
大体日本ですと、これもうちょっとハードサウンディングなですね、ハードロック的なパワーポップ的なアレンジにするんですけど、私サーフィン、ホットロッドが好きなので、ギターは絶対にプレーン・トーンでという、ハードロックにしたくなかったという、そういうものでございます。
THEME FROM BIG WAVE / 山下達郎

 

で、それまで発表してきました曲の中にもそうした傾向の曲が何曲かありますので、そういうものを英語バージョンでやろうと。
1枚前の『MELODIES』、1983年のアルバムのA面の1曲目にも入っております「悲しみのJODY」
これに英語の詞をつけまして、リミックスしたバージョンが2曲目に入っております。
JODY / 山下達郎

 

こうした曲を1人で全部なんで演奏するかと言いますと、先月の『MELODIES』の時も申し上げましたけど、スタジオ・ミュージシャンだとこういうグルーヴは出ないんですね。
いわゆる流行りものの空気が入りますので。
そして、サーフィン・ホットロッドのムーブメントって50年代の終わりから60年代の頭なので、もうこの時点で四半世紀、経っております。
元々古い音楽なので、それ以上古くなんないという、そういう利点があります。
ドゥーワップなんかもそうですけど。
ですので、今聞いても84年で聞いても大して印象変わらないっていう、それが元々古い音楽の利点であります。
そうした古い感じを出すためにやっぱり、スタジオ・ミュージシャンのアップトゥデートな感じはダメなので。
それで1人で全部やっているという、そういう感じでございます。

で、A面の3曲目も1人で全部演奏してる曲でありまして。
この曲は今はですね、このサンデー・ソングブックのテーマソングとしてギターインストでずっとお聴きをいただいておりますが、元々はこの歌入りのバージョンが元であります。
これを元にしてギターインストを作って、番組のテーマとして長く使っておるわけでありますけど。

60年代のに、ブルース&テリーっていまして、ブルース・ジョンストン、テリー・メルチャー、二人とも有名な人ですが。
この人たちのシングルをオークションで、なかなか落ちないんですよね。全然手に入らなくて。
悔しくてですね、それでじゃったらそういう曲作っちゃおうっつって。いわゆるオマージュ・ソングです。
だからこういうのパクリと言う人もいますけどもオマージュ・ソングです。
元のオリジナルを聴いていただければ分かりますけども、結構肉迫してます。
ので、そういうところで、単に商売じゃないということが分かっていただけると思います。
A面の3曲目、「Only With You」。
サーフィンと、いわゆるアウトドアスポーツのドキュメンタリー映画なので、いわゆる情景音楽としてのBGMっていう質が問われるので、この映画のために書き下ろした1曲であります。
ONLY WITH YOU / 山下達郎

 

4曲目の、これも書き下ろしであります。
初めから英語で作るという感じになると、メロディがとっても楽であります(笑)
みんなそうなんですけどですね、我々の世代は。
日本語で乗っけるとなかなかこう制約が多いんですが、英語だとちょっと楽になります。そうするとこういうメロディーラインが考えられます。
ただ、ギターのパッセージがですね、歌のノリと違うので。
随分昔から申し上げておりますけども、これステージでできない曲なんです。歌いながらできないという、なので、ステージで一度もやったことがありません。
レコードの中だけでのお楽しみ「Magic Ways」。
MAGIC WAYS / 山下達郎

 

この『BIG WAVE』というアルバムは1984年に発売されましたけども、私にとってこれが最後のアナログ・レコーディングになります。
この後の『POCKET MUSIC』からはデジタル・レコーディングになります。
それはもう、さんざっぱら30年以上ぼやき続けておりますけれども。
で、録音はアナログなんですけどもですね、リバーブがこのアルバムからデジタル・リバーブに変わりました。
音色が若干変わって、それまでのよりはちょっと明るめなのリバーブになっております。
そういうのも、ちょっと特徴なんですけども。
まあ、40年経って聴きますとですね、あの、そんなに別にどうでもいいやって(笑)

で、今の、「Magic Ways」、それから1曲前の「Only With You」、書き下ろしですが。
作詞をしてくれているアラン・オデイ、アメリカのシンガーソングライター、それで作曲家としてもたくさんヒットがありますが。
アラン・オデイと縁がありまして詞を頼んで、一番最初に私の作品になりましたのが、アルバム『FOR YOU』に入っております「Your Eyes」という1曲でありまして。
ここから、アランとのパートナーシップが、ずっと、アランが亡くなるまで続いていきました。
その一番最初の記念すべき作品もこの『BIG WAVE』にリミックスされて入っております。
でも2年後ですのでですね、テイストほとんど変わらないという。
今の「Magic Ways」と「Your Eyes」は当時の、私のレコーディング・メンバーであります、青山純、伊藤広規、難波弘之、そして私と、4人レコーディングでやっております。
息の合ったプレイ、「Your Eyes」。
YOUR EYES / 山下達郎

 

アラン・オデイという人は本当にロマンチストと言いましょうか、愛に溢れた歌詞をこう書く人であります。
この時44歳。『FOR YOU』の時42歳ですから、まだパッションというか、情熱というか、そういう歌詞であります。
で、この『BIG WAVE』を、日本に来てもらって歌詞を書いてもらう中で色々話をしました。
これもよく言ってる話ですけれども。
サーフィンの映画の曲なので、私もアラン・オデイもあんまりそれほど深い知識はなかったんですけども、私にとってのサーフィンのイメージっていうのは、サーフィンて非常に孤独なスポーツだという印象がありまして。
ですので、疎外とか孤独。波の上で1人っきりで波を待ってると、そういうところで満たされるという、そういうような感じかなと。
で、実際のサーファーの人の話を聞いても、1年の半分は働いて残りの半分は波に乗るという、そういうような、やっぱり都会の生活とかには合わない、そういうようなことをアラン・オデイに話したところ、すごく興味を持ちまして、それで生まれたのがこの『BIG WAVE』のテーマの歌詞の世界であります。

彼も、曲も書く詞も書く人なので、このアルバムのちょっと前にCMでつくりました、「I LOVE YOU」というコマーシャルの歌がありまして。
これ「I LOVE YOU」しか歌詞に入ってないという、とんでもない歌なんですけども。
これをアランが聞いて、これにもう1個メロディーつけたらどうだっていう、それで「I LOVE YOU Part II」っていうやつでやってみたらいいんじゃないかというアイデアが出まして、それでつくったのが「I LOVE YOU Part II」。
元々のCMバージョンに新しいメロディーを乗っけましたので、この曲だけ、タツロー・ヤマシタ、アラン・オデイという共作になっております。
これがA面の最後になります。「I LOVE YOU Part 2」。
I LOVE YOU PART 2 / 山下達郎

 

で、冒頭にも申し上げましたみたいに、ブライアン・ウィルソンが亡くなりましたので、なんか本当にもう因縁めいたものを感じますが。
リスナーから
『『BIG WAVE』再発と訃報とのあまりのタイミングに、単なる偶然ではないものを感じます』
偶然ですけどね。ええ。
このアルバム『BIG WAVE』出した時にデニス・ウィルソンが亡くなりましたので、オリジナル・アルバムには、デニス・ウィルソンに捧げるというクレジットもありますが。
これで、ブライアン3兄弟は全員亡くなってしまいましたが、ブライアン・ウィルソンが一番長生きしたというですね。

というわけで『BIG WAVE』、B面にまいります。
B面は、ビーチ・ボーイズのカバーを中心に構成しております。
全曲1人多重録音で一生懸命肉迫しようと努力をいたしました。
B面の1曲目は64年のアルバム『All Summer Long』に入っております、私の大好きな『All Summer Long』から20年後のカバー「Girls On The Beach」。
GIRLS ON THE BEACH / 山下達郎

 

この『BIG WAVE』出す数年前から、シングルのB面でビーチ・ボーイズのカバーを始めまして。
ちょうどその時にこの『BIG WAVE』の企画が出てきましたので、それも一緒にという。
83年、1年前に出しましたシングル「スプリンクラー」、これのB面に入れました、ビーチ・ボーイズのアルバム『Today』、65年のアルバムに入っております、大変有名な1曲でございますがB面2曲目の「Please Let Me Wonder」の山下達郎版。
オリジナルのビーチ・ボーイズのバージョンよりも若干長いんですね。
ま、遊びです。
もうちょっと長くしたいなっていうそういうような感じであります。
全部1人多重と申し上げましたが、ベースだけは伊藤広規さんなんですね。
このアルバム、12曲中8曲は広規にベース弾いてもらってます。
なんせ、なんでも私の空気感に合うんですよね。
この「Please Let Me Wonder」のこのジンジンジンの感じも、本当に、ぴゃーっとやってぱっと帰ってくんですけど、ばっちりはまっております。
PLEASE LET ME WONDER / 山下達郎

 

この次もそんな感じ。
1968年のビーチ・ボーイズのアルバム『Wild Honey』に入っております「DARLIN'」。
シュガー・ベイブの時代から時々やっていた曲ですけれども。
これを「高気圧ガール」、83年のシングルのB面に入れました。
それのリミックス・バージョンです。
この曲もエンディングがかなりオリジナルとは違って長いんですけども。
当時の、この「DARLIN’」が発売された当時のブライアン・ウィルソンの奥さんであります、マリリン・ウィルソンがおりましたグループ、スプリング、これのシングルで「Thinkin'‘Bout You, Baby」という曲があります。
これが「DARLIN’」の元のバージョンでありまして。それを絡めて、ま、シャレです。
DARLIN' / 山下達郎

 

ここまではビーチ・ボーイズの有名なところですけれども、この次の曲はいわゆるレア・アイテムという。
ブライアン・ウィルソンが心の病でツアーに出られなくなって、その代わりにベーシストを一時期務めておりましたのがグレン・キャンベルでありまして。
そんな関係で、グレン・キャンベルに1曲、ブライアン・ウィルソンが1965年に提供してシングル・カットされた曲が「Guess I'm Dumb」というですね1曲でありまして。
これが私の、20代には本当にレアなですねシングルで。
ようやく手に入れて、手に入れるとカバーしたくなるという、病気的な、なんて言いますかそういう癖ですね。
で、海外でも何人かやっておりますけれども、別にいいんです。自分でやりたかった。
で、アルバム『MELODIES』に入れましたもののリミックス。
GUESS I'M DUMB / 山下達郎

 

今までの4曲はブライアン・ウィルソンの作品でございますけども、5曲目の次の曲はちょっと毛色が違います。
私の1978年のアルバム『GO AHEAD!』に入れました「This Could Be The Night」。
これハリー・ニルソンの作曲なんですけれども。
元々モダン・フォーク・カルテットが、1964年にフィル・スペクターのプロデュースでレコーディングしたんですけども、結局、リリースされませんで。
70年代中期にイギリスで、フィル・スペクターのリイシューが行われた時に、アルバムに入っておりまして。
これは、ブライアン・ウィルソンのオールタイム・フェイバリットだよというようなことが書いてありまして。
聴いたところ、これがまたウォール・オブ・サウンドでいいなと思いまして、78年に私カバーしまして。
それの、リミックス・バージョンです。
オリジナルは間奏がギターソロだったんですけど、これは、サックス・ソロだったり、若干の違いがあります。
で、これは全部1人多重というわけではなくて、当時、坂本龍一さんにシンセ弾いてもらったり、ミュージシャンの人、かなり手伝ってもらいまして。
ドラムが叩きたくてやってるという、そういうような感じであります(笑)
THIS COULD BE THE NIGHT / 山下達郎

 

というわけで、今週水曜日25日に再発されます、私の1985年の41年前のアルバム『BIG WAVE』の特集させていただきました。
CDはですね、2014年に30周年記念バージョンというのが出ております。それもまだ現役でございます。
ボーナス・トラックたくさん入っておりますのでCDはそちらの方で。
アルバムも、解説はまた書き直しておりりますので、そちらの方もご覧になって、詳しいことはお楽しみいただきたいと思います。

この当時の映画がドルビーの3.1、アナログ・ドルビーなんですよね。ですので音が、いまいちで。
だったらリミックスすればいいじゃないかとおっしゃるかもしれませんけども。
映画の場合はですね、マルチトラックのこっちの音楽をリミックスしたところで、ナレーションがないので。
ナレーションが現存しないので、ナレーションを被せることができないので、オリジナルのものを作り直すということが不可能です。
ですので、DVDのとかそういうものの音質はですね、ごめんなさいという弁解です。
音質の点ではアナログ盤、CD、カセット、そういうところで、お楽しみいただければと思います。
よもや、しかし、本当に、2025年に『BIG WAVE』の特集をするとは思いませんでしたが、全くありがたい話でございます。

『BIG WAVE』アルバム特集、ご清聴ありがとうございました。
最後に、「I LOVE YOU Part 1」。
I LOVE YOU PART 1 / 山下達郎