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山下達郎サンデーソングブック2025年5月11日『ボブ・ディランのかからないボブ・ディラン特集』

番組中の曲紹介のコメントを要約して記載しています。オンエアされた楽曲のうちYouTubeにオフィシャルな音源がある楽曲にはリンクを張っていますが、オンエアされた音源とはヴァージョンが異なる場合が多々あります。

 

1. 片想い / 山下達郎 '91
2. MR.TAMBOURINE MAN / THE BYRDS '65
3. JUST LIKE A WOMAN / MANFRED MANN '66
4. ALL ALONG THE WATCHTOWER / JIMI HENDRIX EXPERIENCE '68
5. TOO MUCH OF NOTHING / PETER, PAUL & MARY '67
6. I SHALL BE RELEASED / THE BAND '68
7. DON'T THINK TWICE / THE WONDER WHO? '65
8. LOVE MINUS ZERO / THE WALKER BROTHERS '65
9. KNOCKIN' ON HEAVEN'S DOOR / ERIC CLAPTON '75


このあいだボブ・ディランの「A COMPLETE UNKNOWN」という映画を観に行きまして、映画自体はあんまり私、好感持たなかったんですけど(笑)
でも、ボブ・ディランの作品は私、リアルタイムでずっと聴いてきまして。
なので、そのカバー・バージョンというのもたくさん聴いてきましたので、そういうようなものを今日は集めてお届けしたいと思います。
私のリアルタイムの経験ですので、ほとんどが60年代のヒット曲でございます。
なわけで、今日はボブ・ディランのかからないボブ・ディラン特集。
有名どころも、そうでないところも、いろいろと取り合わせて。


5月になりますと、狙った超常連の皆さんが、この曲、リクエストいただきます。
片想い / 山下達郎


ボブ・ディランのカバーといえば、まずはこれからですね。
ザ・バーズ、1965年の全米ナンバー・ワン「Mr. Tambourine Man」。
ボブ・ディランの65年の「Bringing It All Back Home」に収録されております。
今日おかけするカバーは、ボブ・ディランのアルバムと同じ年に発売されているものがほとんどでありますが。
何せこのバーズの『ミスター・タンブリン・マン』が全米ナンバー・ワンになってから、一気にですね、ボブ・ディランの認知度が高まったというものです。
MR.TAMBOURINE MAN / THE BYRDS


いろいろなカバーに関して、ボブ・ディラン自身が評価したり、そうじゃなかったりするんですけども。
そんな中で自分の曲を非常に適切に解釈していると褒めたのが、マンフレッド・マンのバージョンで。
マンフレッド・マン、1966年。同じ年のボブ・ディランの「Blonde on Blonde」のアルバムから「Just Like A Woman 」をカバーしております。
私、これEPで持ってますけれども。日本盤のEPで当時も買いましたけれど。
だけどこれアメリカでヒットしなかったの、今日初めて分かりました(笑)
アメリカでマンフレッド・マンでボブ・ディランのカバーバージョンは「The Mighty Quinn」がヒットしたんですが、この「Just Like A Woman 」はヒットしてないんです。イギリスでベスト10に入ったという。
1966年、全英10位。
でもマンフレッド・マンの代表的なヒットソングです。
JUST LIKE A WOMAN / MANFRED MANN


いわゆるロックバンドだけでなく、R&B、それからジャズ、いろんな人がやっておりますが。
カバーバージョンでも名作がたくさん生まれております。
代表的なものが、ジミ・ヘンドリックス。
1968年の「Electric Ladyland」に入っております「All Along the Watchtower」。
シングルカットされまして、イギリスでは5位、アメリカでは20位というチャートアクション。
1968年、同じ年のボブ・ディランの『John Wesley Harding』のアルバムに入っております。
このジミヘンのトラックなんかは68年なので、ちょうどレコーディングの環境がですね、革命的に発達した時代で。
マルチトラック、それからリバーブ、マイク、それからレコードのカッティングマシーンとかですね、そういう細かいところが目まぐるしく発展した。
そういうものがすごく創作意欲をそそるという、そういう時代でありましたので、超絶的な作品がたくさん生まれました。
 ALL ALONG THE WATCHTOWER / JIMI HENDRIX EXPERIENCE 


今までの3曲は、ほぼボブ・ディランが発表した作品と同じ年にカバーが出ましたが。
この次にお聴きいただきますピーター・ポール&メアリーの1967年、全米35位というヒット曲は、ボブ・ディラン自身の作品はその時点では発売されませんで。
1975年にザ・バンドとのセッション「The Basement Tapes」、67年のレコーディングと言われておりますが、そこの中に入っております。
ので、このPPMのバージョンは単独で発表された珍しいパターンであります。
書き下ろしみたいな感じですね。
PPMはその前にも、「Don’t Think Twice」とかですね、「Blow In The Wind」のヒット曲を出しておりますけども。
この曲もヒットシングルとして、67年のアルバム「Late Again」というアルバムからのシングルカットです。
「Too Much Of Nothing」「何もないことが多すぎる」という難しい歌です。
しかしこのピーター・ポール&メアリーは、コーラスのアレンジが素晴らしいんですね。
メアリーさんがアルトなので、男性と非常によくハモるんです。
こう、やっぱ、トラディショナル・フォークのアンサンブルの見事さと言いましょうか、そのコーラスのアレンジの見事さ、なんか勉強になります。
TOO MUCH OF NOTHING / PETER, PAUL & MARY

 

ボブ・ディランと切っても切れないのがThe Band。
元々Hawksというグループでしたけれども。
ボブ・ディランのバックで、ツアーをやりまして。
それこそ映画に出てくるように、ニューポート・フォーク・フェスティバルで罵声を浴びた延長で、イギリス公演なんかでも散々な目にあいますが。
そんな中でリードギターのロビー・ロバートソンは非常に影響を受けまして、曲作りに反映させていって、The Bandの音楽が作られていきます。
1968年、The Bandとしてのデビュー・アルバム「Music from Big Pink」。
ここに入っております「I Shall Be Released」は、私たちの世代では本当に愛調の一曲でございます。
日本語でのカバーもたくさんあります。
 I SHALL BE RELEASED / THE BAND


で、先ほど申し上げましたみたいな、ボブ・ディランはあまりに影響力が大きくてですね、もうロック、ソウル、ジャズ、あらゆるところでカバーしてますが。
一番ユニークなやつ、フォー・シーズンズが「The Wonder Who?」という偽名バンドで、フランキー・ヴァリが独特の声色で歌うプロジェクトがありまして。
これで、なんとボブ・ディランの「Don’t Think Twice」をカバーしまして。
シングルカットして、これがヒットしたんです。
1965年、全米12位というんですから、立派なもんですが
これはもう変わり種の極地であります。
「Don’t Think Twice」は、あまりに有名なアルバム『The Freewheelin’ Bob Dylan』に入っております。1963年の作品ですけれども、これがフォー・シーズンズ「The Wonder Who?」だと、どうなるかという。
1965年の「Don’t Think Twice」
なんたって、ザ・フォー・シーズンズは、アルバムでバート・バカラックとディランを歌うというですね。
A面がバート・バカラックで、B面がボブ・ディランのカバーという、とんでもないアルバムがあります。それの中にも入っております。
DON'T THINK TWICE / THE WONDER WHO?


これも変わり種ですが、出来が素晴らしくいいので。
ボブ・ディラン、1965年の『Bringing It All Back Home』に入っております「Love Minus Zero / No Limit」という一作を、ウォーカー・ブラザーズが、1965年のデビューアルバムでカバーしてるんですが。
これは素晴らしい出来で、こればっかり聴いてた時代があります。
「Love Minus Zero」って、これも難解な詩であります。
LOVE MINUS ZERO / THE WALKER BROTHERS


というわけで、ボブ・ディランのかからないボブ・ディラン特集。
最後は、1973年にボブ・ディランが出演して音楽も担当した映画「Pat Garrett & Billy The Kid」、これに入っております曲を、1975年にエリック・クラプトンがシングルとして発売しました。
全英38位というチャートアクション「Knocking on Heaven’s Door」
死を迎えて天国のドアをノックするというような内容でございます。
というわけで、ボブ・ディランのかからないボブ・ディラン特集、ご清聴ありがとうございました。
エリック・クラプトン「Knocking on Heaven’s Door」
KNOCKIN' ON HEAVEN'S DOOR / ERIC CLAPTON