おとのほそみち

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西城秀樹さんがカヴァーしたスティクス 「A.D.1928」「Rockin'the Paradise」

アメリカン・プログレ・ハードを代表するバンドのひとつ、スティクスが、2021年7月ニューアルバム『Crash Of The Crown』をリリースした。

Crash of the Crown

Crash of the Crown

  • アーティスト:Styx
  • UME
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 前作の『Mission』(2017年)もこのアルバムも、国内盤のリリースが無いのがいささか寂しくはあるのだが、こうして新作がリリースされるのは、全盛期にファンだった人間にはやはりうれしい。

一時期はメンバー間の内紛が激しく、活動は完全に停滞していたのだから。

現在は全盛期のメンバー3人、トミー・ショウ、ジェイムス・ヤング、チャック・パノッソを含め、メンバーは6人。

フロントマンだったデニス・デ・ヤングはいないが、活動は安定しているようだ。

その出来栄えはというと、ネットで見る限り、意見は大きく割れている。

否定的な意見は「過去の曲にあったようなメロディをつなぎ合わせているようで斬新さがない」
肯定的な意見は「キャッチーなメロディとスペクタクルな展開は、やはりスティクスならでは」
などが代表的なものだ。


私の意見は後者で、曲は短いものが多いが、耳に残るメロディやアレンジがふんだんにあり、さまざまなアイデアを矢継ぎ早に繰り出していく展開は、やはりスティクスならでは。

ぶっちゃっけ、2020年代にふさわしい音では全然ないが、だからこそ、このオリジナリティに価値があると思う。

 

ついでに、といっては怒られるが、デニス・デ・ヤングもほぼ同時に新作を出した。

こちらも全盛期のスティクスを思わせる仕上がりで、つまりは、こうした音を愛好するリスナーが一定以上はいるということだ。

26 East, Vol. 2

26 East, Vol. 2

  • Frontiers Records S.R.L.
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さて、そのスティクスの全盛期はというと、1970年代後半から80年代前半にかけてのこと。
以下のように、全米ベスト10に入るアルバムを連発する。

『グランド・イリュージョン 大いなる幻影』 (1977年) 全米6位
『ピーシズ・オブ・エイト 古代への追想』 (1978年) 全米6位
『コーナーストーン』 (1979年) 全米2位
『パラダイス・シアター』 (1981年) 全米1位
『ミスター・ロボット キルロイ・ワズ・ヒア』(1983年) ※全米3位

あらためて驚くのは、これらの作品をわずか1~2年のインターバルで次々とリリースしていたことだ。

シングルでは1979年の「Babe」が全米1位。

日本でそれ以上に有名なのは、1981年の「Mr. Roboto」だろう。
日本語で「ドモ アリガート ミスターロボット マタアウヒマデ」と歌うあれである。
全米でも3位を記録している。


 

 

さて全米1位を獲得したアルバム『パラダイス・シアター』の楽曲を、西城秀樹さんがカヴァーしている。

アルバムのオープニングを飾る「A.D.1928」~「Rockin'the Paradise」だ。

 

こちらがオリジナル


1曲目のタイトルを「どういう意味?」と思う人は多いかもしれないが、この作品はコンセプトアルバムで、かつてシカゴに存在した映画館パラダイス・シアターのオープンからクローズまでを描いたもの。

それは1970年代後半から1980年代にかけてのアメリカの激動を示している、とされる。

そのシアターがオープンしたが、1928年ということなのだ。

ちなみにこのアルバムからは「The Best of Times」「Too Much Time on My Hands(時は流れて)」という、2枚の全米ベスト10ヒットが生まれているのだが、あえてそれらを選ばないところが秀樹さんらしい。ファンもよくついてきていると思う。

収録されているのは『BIG GAME '81 HIDEKI』

1981年8月16日、後楽園球場で開催したコンサートを収録したものだ。

ファンはよくご存知の通り、このアルバムの収録曲の半分以上が洋楽のカヴァー。

レインボーの「I Surrender」にはじまり、KISS「Loving You Baby」と続き、
ケニー・ロジャース「Lady」で、しっとりさせたあと、「A.D.1928」~「Rockin'the Paradise」にいく。

さらに、こちらもアメリカン・プログレ・ハードの雄、カンサスの「On The Otherside」と続く。

秀樹さんには、こういうドラマティックな展開の曲が本当によく似合う。

鈴木武久氏が率いるバンドの演奏も達者だ。

デビュー50周年を記念してのアルバム復刻がスタートしているが、今のところオリジナルアルバムが先行していてライブアルバムの復刻はまだアナウンスされていない。

約2年間かけて復刻するそうだから、やがてはぜひ、と期待しておきたい。

 

※この原稿書くために検索していて見つけた。
レッツゴー・ヤングでの「I surrender~Lady~A.D.1928~Rockin' The Paradise」
つまり『BIG GAME '81 HIDEKI』A面のダイジェスト。
特に「Lady」は震えるほど、うまい。

<了>

 

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