おとのほそみち

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山下達郎サンデーソングブック2023年4月16日『「変わった声のシンガー」で棚からひとつかみ』

番組中の曲の解説部分を要約して記しています(青字部分は書き起こし)。貼り付けている音源は、オンエアされたヴァージョンとは違うことが多々あります。


1. 俺の空 / 山下達郎 "レイ・オブ・ホープ" '11
2. GIVE ME JUST A LITTLE MORE TIME / CHAIRMEN OF THE BOARD '70
3. TELL IT LIKE IT IS / AARON NEVILLE '67
4. SHA WAS BORN TO BE MY UNICORN / TYRANNOSAURUS REX "UNICORN" '69
5. NEMSIS / ARCH ENEMY '05
6. ALL THE WAY / JIMMY SCOTT "ALL THE WAY" '92
7. SMOKESTACK LIGHTNIN' / HOWLIN' WOLF '56
8. I STILL CARE / MISS FRANKIE NOLAN '61
9. 世界の果てまで / 山下達郎 '95

 

2週間ぐらい前にリスナーの方から「変わった声のシンガー」を聴いてみたい、そういうお便りをいただきました。
それに乗りまして。こんなこともあろうかと、前もって準備をしておりました。
転ばぬ先の選曲であります。
で、今日は久しぶりに変ちくりんな「棚つか」でございます。
『変わった声のシンガーで棚からひとつかみ』
変な声のシンガーでとかいうと語弊がありますので、変わった声のシンガー。
決して珍盤・奇盤ではございません。真面目なプログラムでございます。
いろいろな普通の歌い方じゃないと。
「普通の歌い方じゃない」って何って(笑)
いわゆる特徴のある歌い方、特徴のある声質、そういうなものを選んで。
たくさんありますので、そういう方。
たくさんいらっしゃいますので、ほんの一掴みです。

ここのところ、ものすごいお便りの数でありますが。
というのも坂本龍一さんがお亡くなりになりましたので、そういうお便りが山のようにに来てるんですけれども。
ちょっと、こっちが余裕がありませんので、また日を置いて改めて。
彼は環境問題とか、そういうものに非常に熱心な活動をしてらっしゃった方なので。
そんな事を思いつつ、今日は1曲目は私の2011年のアルバム「RAY OF HOPE」から「俺の空」
俺の空 / 山下達郎


最近のポピュラーミュージックは、とにかくみんな声、歌い方、似てきておりましてですね。
どれ聴いても同じ、そういうような感じで。昔からそういう傾向ありますが。
そんな中で、聴いて一発でわかる特徴のある歌い方、特徴のある声質。
まずは順当なところでジェネラル・ジョンソンっていうシンガーがいます。
バージニア出身で、ちっちゃい時からからゴスペルで歌ってておりまして。
ショーメンというグループでデビューいたしまして。
「イット・ウィル・スタンド」っていうヒット曲がありますけれども。
その後、デトロイトに移ってきまして、チェアメン・オブ・ザ・ボードっていうグループのメンバーになりまして。
デビュー・ヒット、1970年全米3位。ミリオンセラーとなりました。
とにかく聴いて一発でわかる!
私、これ高校生の時にFENで聴いて「なんだこれは!」という強烈な印象で、シングル買いました。
チェアメン・オブ・ザ・ボード「Give Me Just A Little More Time」で、今日は始めてみました。
GIVE ME JUST A LITTLE MORE TIME / CHAIRMEN OF THE BOARD


だいたい歌い方に特徴がある方、たくさん、いらっしゃいますけれどもですね。
一つのスタイルとして「ちりめん」という俗に「ちりめんバイブ」。
メェェェ~、そういう感じです。
「ちりめんバイブ」の代表的な人、アーロン・ネヴィル
ニューオリンズを代表するシンガーでございます。
後にネヴィル・ブラザーズ、兄弟グループでございますけども、そのメンバーであります。
私たちの世代にはおなじみでありますが。
アーロン・ネヴィルの出世作、1967年全米R&Bチャート、ナンバーワン。
全米でも2位まで上がりました代表作「Tell It Like It Is」
TELL IT LIKE IT IS / AARON NEVILLE

 

「ちりめんバイブ」といいますと、私の記憶で一番鮮烈なのはマーク・ボラン。
Tレックスの前にティラノザウルス・レックス。
イギリスのティラノザウルス・レックスか、日本のRCサクセションか、とそういう時代でございました。
このグループの前にジョンズ・チルドレンというグループのメンバーであります。
その時の「Desdemona」という1967年のヒット曲、それもすごかったです。
もろ「ちりめん」のヤツですが。
ティラノザウルス・レックス、日本じゃ、ろくすっぽリリースがありませんで、アルバムが日本盤で1枚出た時に、友達が買ってきてそれを聴いて。
「Afghan Woman」というのがありまして、それすごく鮮烈に残ってるんです。
素晴らしいシンガーですが、69年のサード・アルバム「ユニコーン」から「She Was Born To Be My Unicorn」
やっぱり特徴のあるあのサウンドは古びませんね。時代を超えます。
SHA WAS BORN TO BE MY UNICORN / TYRANNOSAURUS REX


昔もこうした特徴のある声がありますけれども現在もたくさんいます。
スウェーデンのメタルバンドでアーチ・エネミーというバンドがあります。
このリードボーカルの人が女の人なんですけども、とても女の人とは思えないくらいのパワーがあるって言いましょうかね。
聴いていただくと、わかりますけども。
しかも初代のメンバーが変わって2代目のメンバーになりますけど同じパワーという(笑)
ちょっとは違うんですけど、すごい!
変わったバンドですが、うまいので聴いてて飽きません。
2005年のアルバム「ドDoomsday Machine」からリードボーカル、アンジェラ・ゴソウ (Angela Gossow)で「Nemesis」
これすごいな、ドラム!
これ聴いてレコード買っちゃいました。ちょっと脱力しましたけれど(笑)
このアンジェラ・ゴソウって人は女性なんですけども、もう完全に男性顔負けです。
NEMSIS / ARCH ENEMY 


今度は男性ですけども女性的な人。
ジミー・スコット、この人は今や本当に有名になりましたけれども。
本当に不遇な歌手生活を送って、顧みられることがなかったんですけども。
1992に年にトミー・リピューマがプロデュースした「All The Way」っていうアルバムで一躍脚光を浴びまして、長い休眠から復帰しました。
名盤として知られる一作でございます。
男性にとって普通訪れる変声期が彼には訪れなかったので、それこそ年をとってもずっと独特の声質を保ったという。
それが逆に幸いしたという結果ですが。
とにかく人生の苦労がよく出てる歌声でありまして、誰が聴いても心にしみる歌声です。
ジミー・スコット、1992年のアルバム「All The Way」からタイトルソングになっております、サミー・カーンのスタンダード・ナンバー、フランクシナトラで有名だった「All The Way」
ALL THE WAY / JIMMY SCOTT

 

今度は、ブルースで行ってみたいと思いますが、ブルースといえば何と言ってもこの人、ハウリン・ウルフ。
南部から、シカゴに上がってきまして、シカゴ・ブルースの重鎮として活躍をいたしました。
なんてたって「狼の遠吠え」っていう芸名ですから。
ハウリン・ウルフ、代表作で行きましょう。
1956年「Smokestack Lightnin’」
女の人に、ふられてしまったという。
俺が泣くのが聞こえないのかという、そういう歌であります。
SMOKESTACK LIGHTNIN' / HOWLIN' WOLF


そうした変わった声といいましょうか聴いて一発でわかる。
今のハウリン・ウルフも一度聴いたら忘れられない声ですけれども。
そうしたシンガーの代表がフォー・シーズンズのフランキー・ヴァリであります。
あの裏声が、もうとにかく一度聴いたら忘れられませんけれども。
フランキー・ヴァリはフォー・シーズンズで成功するまでに、もう、いろんな変名でレコード出しまくっております。
フランキー・ヴァリ、フランキー・タイラー、フランキー・ベイル、ヴィレッジ・ヴォイシズ。
そんなような変名で、53年頃からたくさん出しておりました。
これも、そういう一つなんですけど。
これは、なんと女性名でリリースしたシングルございます。
シェリーのまだ前です。
1961年、ミス・フランキー・ノーランというクレジットであります。
ボブ・クリューのプロデュースで、作曲がボブ・ゴーディオなので。
フォー・シーズンズ、その前にフォー・ラバーズって前身のグループがありますが、その間にリリースされたやつであります。
最初の裏声は、フランキー・ヴァリだと分かりますけど、歌い始めるとまるで女の人みたいな、そういう歌い方をするという珍品です。
I STILL CARE / MISS FRANKIE NOLAN


というわけで、今日の最後は私の95年に発売しましたシングル「世界の果てまで」
この曲を作る時にですねイメージした舞台が神宮外苑の銀杏並木。絵画館前の、あの銀杏並木の通りでありました。
世界の果てまで / 山下達郎