おとのほそみち

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山下達郎サンデーソングブック2024年3月17日『フィリー・ソウルで棚からひとつかみ Part2』

番組中の曲解説の主要な部分を書き起こしています。


1. パレード / 山下達郎 '76
2. MY LOVE IS FREE / DOUBLE EXPOSURE '77
3. WHEN THE FUEL RUNS OUT / EXCECTIVE SUITE '74
4. YOUR LOVE HAS PUT A SPELL ON ME / THE FINISHING TOUCH '74
5. NEVER LET YOU GET AWAY FROM ME / ANTHONY WHITE '76
6. ONLY TO YOU / TEDDY PENDERGRASS  '82
7. NEWSY NEIGHBORS / DOUBLE EXPOSURE  '78
8. MY HEART / THE STYLISTICS  '82

 

先週「フィリー・ソウルで棚からひとつかみ」、フィラデルフィアのソウルミュージックを70年代中心にお聴きいただきました。
予想をはるかに上回るご好評をいただきました。気を良くしております。
今日も張り切ってPart2、攻めてみてみたいと思います。
フィラデルフィア・ソウルっていいますと、私たちの世代ですとスリー・ディグリーズとかですね、ヒゲダンスとか、あれ、フィリー・ソウルじゃないんですけど、そのリズムパターンを持ってきたというだけなんですが、そんなようなリクエストいただいております。
サンデーソングブックですので、あんまりかからないやつ。
日本の特にラジオ放送であんまりかからないやつ、CD化されてないやつ、YouTubeでしか聴けない、そういうようなやつをピックアップして、いい音でお届けするという感じでございます。

私の音楽でフィラデルフィア・ソウルに影響を受けたものがありますけれども、特に60年代のフィラデルフィア産のポップミュージックにものすごく影響を受けました。
特にアレンジメントとかですね、作曲の技法とか、そういうようなものにものすごく影響を受けました。
それの一つが「パレード」、シュガーベイブの時代の曲ですけれども
これをレコード化する時にナイアガラ・トライアングルに入れましたパレードのバージョンは、いわゆる60年代のフィラデルフィア・ポップのイディオムで制作しております。
今日も「パレード」春先でございますので、リクエストいただいております。
パレード / 山下達郎

 

フィラデルフィア・ソウルミュージック、先週もご紹介しましたが、50年代から、ずっとドゥワップの時代から続きます。
リズム&ブルース、ソウルミュージック、いろんな呼び方がありますが全部同じです。
初めはハーレム・ヒットパレードとかレース・ミュージック、非常に差別的な用語ですけれども、そういう形でアフリカン・アメリカンの音楽を区別していたんですけれども、だんだんと音楽的に高度になってきます。
それをいわゆる白人の観客にどうやって届けようか、ということを考えた時に生み出された名称が「ロックン・ロール」もしくは「リズム&ブルース」そういう用語でありました。

50年代の終わりに後にアトランティックの役員になりますジェリー・ウェクスラーという、当時はビルボード・マガジンに勤めてた人が「リズム&ブルース」という言葉を作り出したと言われております。
「ロックン・ロール」という言葉はご存じのようにアラン・フリードが作り出したと言われております。
「ドゥーワップ」という言葉も60年代に入ってガス・ガッサートというニューヨークのDJが考案したと言われております。
全部同じです。

50年代のストリート・ミュージックは「ドゥワップ」と言われ、それが「リズム&ブルース」という形になりまして、60年代の終わり、公民権運動が盛んになるにつれて、いわゆるアフリカン・アメリカの人権が上がってくるとともに「ソウル・ミュージック」という言葉になりまして、今は「リズム&ブルース」というようなことで一括されております。何でも同じです。

その中でアメリカは広いので地域差があります。
で、
フィラデルフィアという都市は150万人しか人口いないんですね。すごいですね。
そこで、特に60年代終わりから70年代を過ぎて80年代に行く頃にフィリー・ソウルがモータウンの後に全盛期を迎えました。
その時代の音を、先週と今週お届けしております。

で、私たちがフィリー・ソウルという場合は、フィラデルフィアのスタジオミュージシャンMFSB、その後、枝分かれしますけども、その人たちによる演奏
そしてシグマ・サウンドというスタジオがフィラデルフィアにありまして、そこの音。
そこを取り巻くミュージシャンと作曲家、作詞家、そしてボーカリスト、ボーカル・グループ、そういうものを、ひとまとめにしてフィリー・ソウルという呼び名をしております。

ケニー・ギャンブルとレオン・ハフが立ち上げましたフィラデルフィア・インターナショナルというレーベルが、70年代の頭に全盛期を迎えまして。
そこのスタジオミュージシャンがその後枝分かれしまして、ドラムのアール・ヤング、ベースのロニー・ベイカー、ギターのノーマン・ハリス、そしてビブラフォン奏者のヴィンセント・モンタナ、こういう人たちが新しいグループ作りまして。
サルソウル・レーベルというのが、74年に出来ました。
ニューヨークのレベルですけども、ここからディストリビュートしました。
製作はフィラデルフィアのスタジオでやっておりますけれども、たくさん素晴らしい作品が生まれました。

そんななかの一つ、ダブル・エクスポージャー。
4人組のヴォーカル・グループ。1977年、全米ソウル・チャート22位の「MY LOVE IS FREE」。
この番組でたびたびかけているが素晴らしい作品。
ベーカー、ハリス、ヤング・マシーンという元MFSBの人たちがやっています。
MY LOVE IS FREE / DOUBLE EXPOSURE

 

お次も同じスタッフです。
1974年、歌っているエグゼクティブ・スイートは4人組のヴォーカル・グループ。
昔はニュージャージー出身と言われていましたが、今はフィラデルフィア出身みたいです。
60年代に発売された「Christine」という作品はダリル・ホールが関わっていることで有名です。
1974年、バビロンレーベルというインディーズから出た全米ソウル・チャート48位。
未だにCD化されていない逸品「WHEN THE FUEL RUNS OUT」。
WHEN THE FUEL RUNS OUT / EXCECTIVE SUITE


次は先週もかけましたフィニッシング・タッチ。きれいな上手いファルセットです。
冒頭にも言いましたが、フィリー・ソウルの好きな曲をかけているだけです。根拠はありません。時代もばらばら。
フィラデルフィアで録音されたものを中心に、フィラデルフィア出身のグループ、ミュージシャン。
リバーブが同じとか、ドラムとベースが同じとか。
フィニッシング・タッチは公には2枚しかシングルが出てないが、その4曲は素晴らしい曲ばかり。
そのうちの1974年の「YOUR LOVE HAS PUT A SPELL ON ME」。
YOUR LOVE HAS PUT A SPELL ON ME / THE FINISHING TOUCH

 

頭の3曲全部同じドラマーアール・ヤングという人で、フィル・インが同じ、スネアのチューニングも同じであります。
ベースのロニー・ベイカーとコンビで60年代の初頭からずーっと活躍してきた人でありますが、今度の作品も同じ。

アンソニー・ホワイトはキーボード・プレーヤーで作曲家。
1976年にフィラデルフィア・インターナショナルでソロ・アルバムを出しました。
そのときは全くヒットもせずに話題にもならなかったんですが、90年代に入ってヒップホップ・シーンでサンプリンで注目されました。
歌のうまい人だったのでオリジナル盤がものすごく高騰した。
76年なので私オリジナル盤を買ってましたけど、今はCD化されてシングルオンリーまでボーナストラックに入って聞けるという。
昨年、紙ジャケ化されたときに1回かけましたが、今日は違う曲で。
アルバム『COULD IT BE MAGIC』から、「NEVER LET YOU GET AWAY FROM ME」
NEVER LET YOU GET AWAY FROM ME / ANTHONY WHITE


こうやってお聴きいただくと、フィリー・ソウルというイメージがですね、あるかなと思います
でも大スターが今日はいないので。
次は、スターシンガー テディ・ペンダーグラス。
テディ・ペンダーグラスは1982年に、絶頂期の時に自動車事故にあいまして、車椅子生活を余儀なくされました。
そのリハビリ中に発売されたアルバム『This One's for You』があります。
後から判明したのは、リハビリ中にレコーディングされたものではなくて、いわゆるアウトテイクを集めたもので、クレジットがバラバラなのはそのせいなので、あとから聞くと納得なんですが。
今日お聴きいただきますのは、アシュフォード&シンプソンが作曲・プロデュースした、アルバムの一番最後に入っております、僕大好きな曲なんですけども。
この曲だけ、でもフィラデルフィアのシグマではなくてニューヨークのシグマ・サウンドで録られたやつで、僕、ニューヨークのシグマ・サウンドで『ポケットミュージック』の時にレコーディングしたことあります。
ここでのレコーディングですが、僕この曲大好きで、このコーダの、もういわゆるシンガロングとおっかけがですね、もうアシュフォード&シンプソンならではという素晴らしい一作です。
ONLY TO YOU / TEDDY PENDERGRASS

 

次は1曲目にかけたダブル・エクスポージャー、再び登場。僕、このグループ大好きなので。
先程の曲はファーストアルバムに入ってましたが、今度のはセカンドアルバム、1978年の『FOURPLAY』に入ってます。
アラン・フェルダー、ノーマン・ハリス、フィラデルフィアのミュージシャンたちの作品です。
これもコーダの畳み掛けがいいので、ちょっと長いがお楽しみいただければ。
NEWSY NEIGHBORS / DOUBLE EXPOSURE

リード・ヴォーカルはジェームズ・ウィリアムス。この人はうまい。素晴らしい声してます。
ダブル・エクスポージャーというこのグループは、史上最初の12インチリリースのアーティストと言われております。
サルソウルのディスコ全盛時代、当時は、こうしたいわゆるドラムのキックの4つ打ちは、いわゆるディスコミュージックですけども、こういうのをみんなで、なんか馬鹿にしてた時代がありまして。
「ディスコかよ~」
だけど、そうしたダンスミュージックの歴史の中で、このキックの4つ打ちというのが、一番ダンスが踊りやすいという、非常にドラムが安定しているという。
ベニー・グッドマンなんかの時代に戻りますと、キックが4つ打ちで、それでダンスをしたという、そういうあれでございます。
だんだん複雑になってきまして、そういう簡単なビートを軽視するという(笑)傾向があったのが、70年代、この時代になってまた戻って、これがマシン・ミュージックになってマシンのドラムの4つ打ちに展開していくという。
そういうような歴史ですが、そういう話はまた後日。

 

今日の最後は、先週の頭と挟んで締めくくりでスタイリスティックス行ってみようと思いますが、来週もやるんだったら、まあいいか(笑)
スタイリスティックス、後期のアルバム、1982年の「1982」
これに入ってます、ケニー・ギャンブルのプロデュース・作曲の作品。
MY HEART / THE STYLISTICS