おとのほそみち

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山下達郎サンデーソングブック 2020年10月11日「スイート・ソウルで棚からひとつかみ」書き起こし

オンエアされた曲に関する達郎氏のコメントを書き起こしています(一部要約あり)。インフォメーションやリスナーからのメッセージは割愛しています。リンクを張っている音源は、オンエアされた音源とは異なることが多々あります。

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1. 風の回廊(LIVE) / 山下達郎 "16/03/04 石川・金沢歌劇座"
2. COMING BACK TO YOU / FIRST CLASS '77
3. HE WHO LAUGHS LAST LAUGHS THE BEST / MONDAY AFTER '76
4. LOVING YOU (IS THE NEXT BEST THING TO HEAVEN) / CONTINENTAL FOUR '75
5. IN A MOMENT / THE INTRIGUES '69
6. SHE CALLS ME BABY / J.KELLY & THE PREMIERS '74
7. I'D LIKE TO SAY I LOVE YOU / THE ELUSIONS '77 モズリイ

 

私の番組、29年目に入りまして、1461回目のサンデーソングブックでございます。
この季節、ちょっと物悲しくなってきましたので、久しぶりにスイート・ソウル。
60年代末から70年代終わりにかけてのですね、アメリカのリズム&ブルースのボーカルグループの音楽。
特に、甘く切なく、そうしたもの、スイート・ソウル。
昔から大好きで、ときどきやっておりまして。
久しぶりに、いってみたいと思います。
最近聴き始めたというですね、リスナーの皆さんがとっても多くてですね。
メールも、ハガキもいただきます。
そうしますと「スイート・ソウルって、なぁに?」って、そういう方もいらっしゃいましてですね。
じゃ、ちょっとこう、ふんどしを締めなおしてですね、選んできました。
私の番組ですので、ベタなものは、かかりません。
シングルオンリーとか、CDになってないヤツ。
レアなもの中心でございます。
でも、10年ぶりとか15年ぶりくらいにかける曲を、今日は選んでみました。
今までのヤツ、言ってみればアーカイブという感じでございますけれども。
曲の良さは、折り紙付きでございます。
日曜日の午後のひと時、今日も素敵なオールディーズソング、リズム&ブルース ボーカルグループの甘く、切ないサウンドに浸っていただきたいと思います。
『スイート・ソウルで棚からひとつかみ』
今日も最高の選曲と最高の音質でお届けいたします山下達郎サンデーソングブック。

その前に。
もうすぐ「ポケット・ミュージック」と「僕の中の少年」
久々に2020年リマスターバージョンで再発されますので。
「ポケット・ミュージック」に入っておりますシングル、1985年のシングル「風の回廊」
たくさんリクエストいただいております。
ここんとこ得意のライブバージョンでございます。
これは、テレワークのときに一回おかけしました。
2016年3月4日石川は金沢歌劇座でのライブのPAアウトでございます。
最近、初めてのお客さんがですね「PAアウトって何?」
PAというのは、ライブ会場でスピーカーがありますが、あれがPA、パブリックアドレス。
そのこPAに信号を送る調整卓がありまして、調整卓から出た信号を、横でですね、録音したものをPAアウトといいます。
ですので修正も何にもきかないガチンコのライブ・バージョンでございます。
それをリマスタリングしてお聴きをいただいております。

風の回廊(LIVE) / 山下達郎

 

COMING BACK TO YOU / FIRST CLASS


まずは、ファースト・クラス。
ボルティモア出身の4人組の黒人ヴォーカル・グループです。
ニュージャージーでジョージ・カー、シルヴィア・ロビンソン、あのへんの人たちのプロデュースで名作をたくさん出しました。
この曲は1977年にシングルカットされました「COMING BACK TO YOU」
まさにジョージ・カーとシルヴィア・ロビンソンの共同プロデュース。鉄壁のコンビでございます。
3分5セントの電話の時代、交換手が「あと5セント入れないと切れますよ」と言ってるんですが、彼女に「僕は君のところに帰るからね」と興奮してに電話が切れてしまうという、最高にドラマティックなんですが。
このヴァージョンはアルバムには収録されませんで、アルバムは違うんです。
結局シングル・ヴァージョンは未だにCD化されていませんので、45回転のシングルでしか聞けません。
私の番組でしかかかりません、これ(笑)
リクエストもいただいています。


『そもそもスイート・ソウルとはどのような音楽ジャンルなんでしょう。
なんとなくわかっているようで、わからず、ネットで探しても、しっくりくるものがありません。
ぜひとも達郎さんに教えていただければと思います』とリスナーより。
こうした言葉はですね、すべて造語です。
ロックンロールから始まりまして、ジャズももちろんそうですけど、リズム&ブルース、ヒップホップ、アダルト・オリエンテッド・ロック、AOR、フリー・ソウル、ノーザン・ソウル、全部造語です。
なんのために作られたのかというと、商業的な意図です。
いわゆるアフリカン・アメリカンの音楽を白人のティーンエイジャーの子供たちに聴かせるためにロックンロールとかリズム&ブルースという言葉が生まれましたので。
スイート・ソウルといっても、何がスイート・ソウルで、それじゃないか、そんなもん、ありません。
ですので、なんとなく分かったような分からないような。
アメリカではですねクワイエット・ストームなんていう、もしくはスロージャムなんて言葉を使います。
ワシントンDCのディスクジョッキーでメルヴィン・リンゼイという人がいまして。
この人がスモーキー・ロビンソンの「Quiet Storm」という曲からとりまして、「Quiet Storm」と名付けられた、こうした柔らかいリズム&ブルースをかける番組を作りまして、これが、すごく当たりまして。
70年代中期の話ですけれども。
ここから、こうした音楽がラジオでものずごくかかるようになったという、アメリカでの状況でございます。
当時は、私はそんなこと、ぜんぜんわかりません。
こういうのいいなぁと、ただ聴いてただけでございます。

ですのでインディのレーベルとかマイナーなグルーブ、シングル1、2枚しか出してないグループ、そんなのばかりです。
そのなかからいい作品を選んでかけております。
今聞くと古色蒼然たるものがありますが、いま聞いても鑑賞に耐える、現代的な視点で鑑賞に耐えるものを選んで聞いていただいています。
選ぶ根拠としては、ソングライター、プロデューサー、そうした人たちの情報を頼りに探します。

これもそんな一枚です。
グループ名がマンデー・アフター。
1970年代中期にシングル2枚しか確認されていません。
フィラデルフィアのプロダクションだと思われます。
プロデューサーがジョン・デイヴィスというフィラデルフィアの有名なプロデューサーなので、たぶん幽霊グループだと思われます。
でも出来がとってもいいシングルです。
1976年、全米ソウル・チャート98位に引っかかりました「HE WHO LAUGHS LAST LAUGHS THE BEST」

HE WHO LAUGHS LAST LAUGHS THE BEST / MONDAY AFTER



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そもそもコーラスグループというのは、ブラスとかストリングスとかステージで思うように調達できないので、その代わりにコーラスというかたちで。
バンドもそうですね。ビートルズもブラスとかストリングスの代わりに、コーラスで効果をつくる。
そういうところからヴォカールグループの歴史がはじまりました。
ですのでドゥワップなんてストリートミュージックですから、楽器がないのでコーラスで効果を出すと。
アカペラなどができました。

次もフィラデルフィアのグループでコンチネンタル・フォー。
これもうまいグループです。その末期のシングル。
これはニューヨーク録音です。
曲を書いてプロデュースしているのがパトリック・アダムス。ニューヨーク・ティスコ・シーンの重鎮ですが、1975年にコンチネンタル・フォーをプロデュースしまして、素晴らしいシングルにしました。

LOVING YOU (IS THE NEXT BEST THING TO HEAVEN) / CONTINENTAL FOUR



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こうした70年代中期は、アナログオーディオのピークの時代でして、録音、エコー、ミュージシャンの力量、すべてにおいていちばんピークだった時代で、それに乗っかってうまいシンガーが歌うと、完璧なものができる。
現在の尺度に照らしても十二分に視聴に耐えると。
久しぶりにスイートソウルの企画をしましたら、聞き入ってしまいまして、昨日の晩。
夜が明けるまで聞いてしまいました(笑)寝不足です。

ずっとバラードでしたので、景気のいいやつを。
これもフィラデルフィアのグループですが、ジ・イントリーグス。陰謀。
この曲はシングルカットされまして、1969年、R&Bチャート10位。
プロデュース&アレンジbyマーティン&ベルと書いてますので、たぶんボビー・マーティンとトム・ベルの共同作業だと推測されます。他になんのクレジットもありません、このアルバム。
ですけど、音はちゃんとフィリーしています。
60年代末期のフィリーサウンド。

IN A MOMENT / THE INTRIGUES


フィリー然とした、アール・ヤングの炸裂ドラムです。

 

リスナーから『番組内でブルー・アイド・ソウルについて、簡単な解説と、おすすめの曲がありましたら教えてください』
ブルー・アイド・ソウルというのはですね、いわゆる黒人の人に青い目がいないので、白人がリズム&ブルースをプレイするときにブルー・アイド・ソウルという。
白人がやっぱりリズム&ブルースにあこがれてやるのをブルー・アイド・ソウルというようになりました。
今はですね、それすらも差別用語だという方も、いらっしゃいましてですね、微妙なんですけれども。

 

今日はイーストコーストで統一される感じですが、お次は、J・ケリー&ザ・プレミアーズ。
ジョン・ケリーがリード・ヴォーカルで、1970年代に何枚かシングルがあります。
この1曲だけチャートに入っています。
1974年、全米ソウル・チャート46位。
曲を書いてるのがゲイリー・ナイトとジーン・アレンのナイト&アレンのコンビです。
それぞれ、それ以前から有名な作家です。
ゲイリー・ナイトはゲイリー・ウエストンという名前でコニー・フランシスの「ヴァケーション」があります。
ジーン・アレンのいちばん有名なのは、ボビー・ヴィントンの「ミスター・ロンリー」、ジェットストリームのテーマですね。これを作った人です。
この人達が60年代の中期から、一緒に仕事をするようになりまして、特にこうしたスイートソウルで名曲がたくさんあります。作家としてそれほど有名ではないですが、いい作品がたくさんあります。
そんな中から。

SHE CALLS ME BABY / J.KELLY & THE PREMIERS

この曲もフィラデルフィアのシグマ・サウンドのレコーディングということです。

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今度はニューヨーク。
マイケル・ゼイガーのプロダクションです。
1977年、歌っていますのがエルージョンズというグループです。
全く何の資料もありません。
イリュージョンというグループがありますが、こっちはエルージョン。
マイケル・ゼイガーのプロデュースなので、音はちゃんとしています。
ニューヨークサウンドです。

I'D LIKE TO SAY I LOVE YOU / THE ELUSIONS



 

今日おかけした作品は、シングル盤でしか未だに聴けないものがほとんどです。
ブートでCDになっていますが、それはいずれもマスター・テープではなくて板起こしですので、私の番組の方がいい音がしてます。
そういうソースを結果的に選んだと。意図したあれじゃないですが。
全部東海岸の作品ばかりになってしまいました。また何週間かしたらやろうと思います。


リスナーから『以前、達郎さんが番組で、今までコンサートを見て3本指はホリーズとフリーだと言ってましたが、あと一本は何なんですか』
ホリーズ、フリーそしてジャクソン・ブラウンです。
ジャクソン・ブラウンはほんとうに感動しました。
この3つが自分の人生で3本指ですかね。

来週はドゥワップでお届けします。秋の季節にぴったりだと思います。お楽しみに。

 

<了>

 

「スウィートソウルで棚からひとつかみ」続編はこちら