おとのほそみち

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山下達郎サンデーソングブック 2021年02月14日「ウォール・オブ・サウンドで棚からひとつかみ」書き起こし


達郎氏による曲の解説部分を書き起こしています。インフォメーションやリスナーからのメッセージは割愛しています。

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フィル・スペクターが先日亡くなりました。
フィル・スペクターは1960年代から70年代にかけて、たいへん大きな影響力をもった人なんですが、いろいろと人間的な毀誉褒貶も多くてですね。
いろいろなスキャンダルにあふれた人でもありまして、結局、刑務所でコロナにかかって亡くなってしまったという。
音楽は残っております。
実際に、彼の音楽制作手法ってのはですね、後に大きな影響を残しております。
いろんなところでフィル・スペクターの特集をやっておりますけども、出尽くしてるんです、話が。
ですので、今日はひとつですね、フィルス・ペクターのそうした製作とか、音作りに影響されて僕もやってみようっていう人がたくさんいますので。
そういうフィル・スペクターの音、真似っこした音をですね、今日は棚からひとつかみ。
題して『ウォール・オブ・サウンドで棚からひとつかみ』
ウォール・オブ・サウンドとは何か、ネットで調べれば出てますので。音聴くほうが大事なので。
今日は、そういうものから選びましてですね。
でも、まぁ、正直申し上げて、始めて後悔したという(笑)
かけても、かけてもきりがないので。
ですので、もう枚挙にいとまがないって、ほんとに棚からひとつかみです。
他の方がなされば、ぜんぜん違う選曲なるかもしれませんけども。
あくまで、私が選んだウォール・オブ・サウンドのフィル・スペクターに影響を受けた音作りの作品。
そういうものを選んで、いってみたいと思います。

今日は、バレンタインデーなので、せっかくですので、大瀧詠一さんの「BLUE VALENTINE'S DAY」
1977年の暮に出しました「ナイアガラ・カレンダー78」、この2月に入ってます。
たくさん、たくさんリクエスト頂きました。
今聴くとですね、ほんとに歌がうまい。

BLUE VALENTINE'S DAY / 大瀧詠一



WHY DO FOOLS FALL IN LOVE / THE BEACH BOYS


「ウォール・オブ・サウンド」はネットで探してくださいって申し上げましたが、ざっくり申し上げまして、まずはリバーブ。ぐしょぐしょのリバーブ
それから多人数録音。よってたかって十数人でやる。
それからモノラルですね。モノラル録音、ステレオではありません。
モノラルのそれによって音圧というか、グルーヴというか、そういうものが、ありますが。
全ては、そうした音の壁というものを構築することによってグルーヴを出すというですね。
フィル・スペクターは自分でいうところの「ポケット・シンフォニー」とか、それから「ティーン・エイジ・ポップのワーグナー的展開」とか、そういうような、いろんな言い方をしておりますけれども。
そういうようなものでございます。
でも、人によって受け止め方が違います。
初期はそれほどリバーブがたくさん無くてですね、だんだん、だんだんエスカレートしていくという歴史もございます。
そんな中で私自身の個人的な感想でいきますと、やっぱり「音の壁」っていいましょうか。
リバーブ、バァーンっていう、そういうものによるグルーヴ。
そういうものを中心に、今日はお聴きをいただきます。

フィル・スペクターの音にものすごく影響を受けたのがビーチボーイズのブライアン・ウィルソンです。
何度もそういうトライアルをしていて、フィル・スペクターに曲を使って欲しくて、ボツられたとかいろいろあります。
そんななかのもの。
1964年のアルバム『SHUT DOWN VOL.2』に入ってます「WHY DO FOOLS FALL IN LOVE」。
1956年のフランキー・ライモン&ザ・ティーンネイジャーズのヒット曲ですが、これをいわゆるウォール・オブ・サウンドで構築した、大変優れたトラックであります。
日本で『SHUT DOWN VOL.2』が発売されたとき、この曲はカットされまして、「HAWAII」という曲と差し替わってしまったので、「WHY DO FOOLS FALL IN LOVE」はシングルのB面でしか聴けなかったんですが、CDになったので今ではどこでも聴けるようになりました。


とにかく関係した人たちがみな、フィル・スペクターの音の作り方に驚愕して、そういうものを目指した。
具体的にフィル・スペクターのスタッフのソングライターとかそういう人たちが、そういうものをすごく志向しました。
その中のコンビが、アンダース&ポンシア。ニュヨークの二人組です。
ドゥー・ワップ・グループからスタートして、トレードウィンズという名義で1965年に出したシングルで全米32位。
これもフィル・スペクターに使ってほしかったんですが、使ってくれなかった(笑)
この曲はデモがレコードになったような音像ですが、実際デモだと思われます。
私これ高校のときから聞いてますので、音がよければいい。
私、自分自身でもカヴァーしていてます。

NEW YORK'S A LONELY TOWN / THE TRADEWINDS

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今日お聞きいただく半分以上の曲は、当時日本ではレコードでは聞けない曲で、ラジオでもろくにかかってないですが、今はホントに便利な世の中でCDで間に合います。あとはYou Tubeに転がってたりしますので。
私はこうしたウォール・オブ・サウンド、といいますか、こうした大エコー大会の曲が好きで昔から聴いてきました。
そうしたフィル・スペクター・クローンのいちばん最たるものが、1967年のザ・ウォール・オブ・サウンドというグループなんです。もちろんでっち上げですけど。
これがホントにスペクターのクローンで、しかもなかなか出来がいい。
つくっているのが、バズ・クリフォード、1961年の「Baby Sittin' Boogie」というワンヒットワンダーですが、あとはジャン・デイヴィスという、ベンチャーズの「逃亡者」の作曲をしている人で、ギタリストとしても優秀な人で、それをメル・テイラーがプロデュースして、その延長でベンチャーズがやることになったという。
そのジャン・デイヴィスとバズ・クリフォードのコンビニよる1曲「HANG ON」。
これ私まだ本物のシングルが手に入らない一枚であります(笑)
いまはCDになってるので簡単に聞けます。

HANG ON / THE WALL OF SOUND



リスナーから質問『達郎さんがウォール・オブ・サウンドを知るきっかけとなった曲は、いつ頃の誰の曲でしょうか』
中学入るくらいにラジオで「ビー・マイ・ベイビー」とか、そういうものが、かかっておりましたけれども。
私にとって最初のウォール・オブ・サウンド体験の具体的なものはですね、ウォーカー・ブラザースです。
中学2年のときに買ったウォーカー・ブラザースのアルバム。
これのエコーの世界、「なんだこれは」と。
今まで聴いていただいたやつはアメリカの録音ですけども、イギリスの方が録音技術が上の部分がありまして。
特にウォーカー・ブラザースの作品はですね、本家のフィル・スペクターの録音を超えてる迫力を持っております。
ウォーカー・ブラザースの作品は、ほとんどライチャス・ブラザーズのクローンみたいなのを作ってるんですけども、ある意味、ライチャス・ブラザーズを超えてる部分がありまして(笑)
それは、ほんとに中学生の自分にはですね、感動的な世界がありました。
中でも、この一曲が、このエコーの世界の迫力に圧倒されまして。
イギリスでは66年にシングル・カットされまして、全英13位という。
アメリカではシングル・ヒットしませんでしたけれども、僕はウォーカー・ブラザースのエコーの世界のこれが最高傑作の一作だと思います。
もともとは、同じ年にボビー・コールマンという人が発表したんですけども、まったく出来が。
スコット・ウォーカーとジョン・ウォーカーのボーカルが圧倒的に勝っております。
邦題は「心に秘めた想い」、シングルのB面にもなってました。

(BABY) YOU DON'T HAVE TO TELL ME / THE WALKER BROTHERS


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(ガールグループはひなまつりで特集するので)今日は一曲だけ。
ザ・ブレイカウェイズはリバプール出身の3人組女性ヴォーカルグループです。
ひじょうに実力のある人たちでセッション・シンガーとしても、たくさんのレコーディングに参加しています。
でも一曲もヒット曲がありません。
これはサードシングル、1964年の作品ですが、
作曲、アレンジ、プロデュースはトニー・ハッチ。
トニー・ハッチのウォール・オブ・サウンド志向の中でも最高の一作と思われます。
「THAT'S HOW IT GOES」、日本盤が出てまして邦題は「恋のなりゆき」。なんだそれ。

THAT'S HOW IT GOES / THE BREAKAWAYS



イギリス人は特に、フィル・スペクターへの憧れが強い。
プロデューサーとかソングライターに、憧れがありまして。
1960年代の中期にローリング・ストーンズのプロデュースをしていたアンドリュー・オールダムもウォール・オブ・サウンドやリバーヴの世界が本当に大好きでして。
自分がやってるストーンズにもそういうものを導入しようとしましたけれど、ストーンズはバンドなので十分な効果が出ないんですが。
でも気は心ということで何曲かあります。
例えば「TELL ME」なんかもそうですし、あのころのエコー感というのが、やりたくてしょうがないのがミエミエです。
1964年のアメリカのアルバム『12×5』に収められている、シングルでは「TIME IS ON MY SIDE」のカップリングです。日本盤も。
可愛いウォール・オブ・サウンド、「CONGRATULATIONS」。
この曲、好きなんですよね。このエコー感が。

CONGRATULATIONS / THE ROLLING STONES


 

アメリカに戻ります。
ウエストコーストのレッキング・クルーと呼ばれる1960年代中期から後期にかけてのスタジオ・ミュージシャンのプロジェクトを使っていましたので、そのメンバーを集めて来れば、大体同じような音が出る。
スタジオの選択もそのようなところにすれば同じような音が出る。
結果的にいろんな人がそういう音になるという。
これもそんな1枚ですが、アニタ・カー・シンガーズ。
1968年にシングルだけ出ました、この1曲を新春放談で相手をしていただいている宮治淳一さんが「絶対にCDにする」と。
ワーナーでのカタログをベスト盤化したCDにこの曲を収録しまして、私、1回かけたことがあります。
ホントにいい出来の曲です。作曲がB・クリフォードとあるので、バズ・クリフォードかもしれません。
アニタ・カーは日本では全く評価がありませんが、非常にすぐれたコーラスの教則本とかも出しております。すぐれた音楽家です。1968年のシングル。

ALL THIS (HE DOES TO ME) / THE ANITA KERR SINGERS


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自分でやったやつで、一番よくできたと思うのは「ヘロン」なんですけど、最近よく「ヘロン」かけてるので。
これも、苦労したのでなかなかの出来だと思います。
デジタル時代のウォール・オブ・サウンドはですね音像が全く変わりますのでですね。
でも、そうしたリバーブとですね、グルーヴ。
そういうようなもので、一所懸命がんばりました。
ウォール・オブ・サウンドで棚からひとつかみ、来週も引き続き。
1987年、竹内まりや、アルバム『REQUEST』
中山美穂さんに提供した曲のセルフ・カバー「色・ホワイトブレンド」

色・ホワイトブレンド / 竹内まりや


<了>