おとのほそみち

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山下達郎サンデーソングブック2025年10月19日『「ARTISAN」アナログ盤・カセットテープ再発記念』

番組中の曲紹介のコメントを要約して記載しています。

 

1. アトムの子
2. さよなら夏の日
3. ターナーの汽罐車 -Turner's Steamroller-
4. 片想い
5. TOKYO'S A LONELY TOWN
6. 飛遊人 -HUMAN-
7. SPLENDOR
8. MIGHTY SMILE
9. "QUEEN OF HYPE" BLUES
10. ENDLESS GAME
11. GROOVIN'

10月22日、今週の水曜日、1991年6月18日発売されました私のアルバム『ARTISAN』がアナログとカセットで再発されます。

『ARTISAN』の時代は、もうすでにアナログが滅びてしまって、アナログが出ませんでした。
2021年にアナログで再発しましたけど、それはもう重量盤って言いますか、音質重視の2枚組。
トータルタイム測りましたら、なんとか1枚で入るなと。
じゃあ、普通の1枚もののやつで出してみようと。

こうなってくると道楽に近いってことがバレますけれども。
ですので今週発売されます アナログ盤、カセット盤の『ARTISAN』。
これの思い出話などをですね、いつものように申し上げていきたいと思います。

本日は日曜の午後のひととき、私の91年、もう34年のアルバム『ARTISAN』。
「職人」というタイトルのアルバム。これの解説をさせていただきたいと思います。

 

38歳になりましたので、当時のミュージックシーンから行きますと、40に向かっていくと、ロック系の音楽は若い音楽ですので、だんだんやっぱり年をとってくると、シーンから乖離していくという。
私に限らずですね、みんなそういうことを考えながら作る年代になってきます。そういう時に何を作るかと。
ちょうど、80年代、デジタルレコーディング、それからコンピューターミュージックという劇的な変化があったのが、それと格闘していった結果、そういうのがプラスに働くような感じに動き出しました。
それが90年代の頭のところでありまして、そんな中で作った アルバムです。
ほとんど一人で作ってるというですね、

 

1989年に、手塚治虫さんが亡くなりました。
日本の漫画界の最高峰の方でありました。
ふと思いまして、私やっぱり「鉄腕アトム」の世代なので単行本を買ったんですよね。
読んでいくうちに、あまりに鮮明に覚えてるんです。いろんなコマとかセリフとか。
そういう自分に驚いて、ふとですね、我々はやっぱりアトムの子供だろう。
アトムの子という発想が生まれて。
それがちょうど『ARTISAN』の最終段階のレコーディングだったんですけども、10日でレコーディングしてですね、徹夜徹夜で作って、このアルバムの1曲目に入れました。
非常に抽象的なサウンドなんですが、このアルバム『ARTISAN』の顔になりました。
いわゆる連帯とか強調とかを歌った歌で、今の時代の、敵対とか攻撃とかとは全く真逆のメッセージでありますけれども。
この「アトムの子」のミックスがですね、誇張ではなくて奇跡みたいにできたミックスで。
これと同じものをリミックスを何回試みても、この音圧が出ないんですよ。
もう、ある瞬間のミックスの、そういうジャングルビートの奇跡といいましょうか、そういうものなのでした。
アトムの子

 

『ARTISAN』というアルバムタイトルはですね「職人」という意味
まあ、アーティストというものじゃなくて、職人。
芸術家じゃなくて職人だというですね。
なんでこういうタイトルつけたかというと、この時代、音楽業界でですね、ミュージシャンのことをアーティストと呼ぶような風潮が始まって、それがすごく嫌でですね。
自分はアーティストじゃないと。
「僕たちアーティストは」みたいな、そういうのがすごく嫌いで。
じゃあ、私はアーティストじゃなくて『ARTISAN』だという。
元々芸術家とかそういうものよりも市井の職人と言いましょうか、ひたすらこの道何十年みたいな、そういう人の仕事にものすごく憧れて、私自身が祖父が職工だったりしますのでですね。
そういう職人芸というものにものすごく憧れていたので、『ARTISAN』という言葉に魅力が感じまして、タイトルにしました。

 

2曲目はこれシングルカットされましたけれども「さよなら夏の日」
これもまあ、今でもライブでやっているおなじみの1曲ですけれど。
前作『僕の中の少年』でもテーマが出ましたけれども、自分が大人になっていくという、そういうジュブナイルの時代からだんだん大人になって、モラトリアムから外れていくという、そういうものに対する考えを歌った歌であります。
舞台は豊島園のプール。ガールフレンドと行ったら夕立ちが降ってきて、そういう経験をすごく美化して歌った歌です。
今聴きますと、本当に流行に全く背を向けた、80年代から90年代にかけて例えばレコーディングで使われたゲート・リバーブとか、そういうものをほとんど使わないで通しました。
ドラムループもほとんどその頃は使っておりませんで。
そういう意味では、本当に1人データを打ち込んでコンピューターで音作って録音して。
毎日、朝から晩までやっていた。そういう思い出があります。
この「さよなら夏の日」も、人間が演奏してるのはほとんどなくて、全部コンピューターの打ち込みやっております。
そういう1曲ですが、34年前の感じがしないのは、自分がまだライブでやってるからですね。
さよなら夏の日

 


3曲目「ターナーの汽罐車」、これも変な曲でですね。
この頃はもうバブルの時代で、外タレのライブというのが盛んに行われて、しかもホールじゃなくて、なんていいましょうかパブとかですね、そういうところでライブがやられてて。
ドラマティックスのライブを見に行ったんですよね。
それでカフェバーとか、わぁ、懐かしい。
そういうところへ、行っておりましたら、そのトイレに続く暗がりのところで、女の子がしゃがんで顔を覆って泣いてるんですよね。多分男の子とトラブったんだと思いますけども。
それがすごく結構印象的で。
それでパッと思い付いたのが、そうした男女の倦怠という。
それの小道具として出てくるのが、イギリスの風景画家のターナーという人で
この人の代表作に「雨、蒸気、速力 グレート・ウェスタン鉄道」
1844年の作品ですが、これがそのカフェバーに飾ってあるという、そういう想定で作った曲です。

難波くんがアコースティックピアノを弾いてくれてるのが、結構たくさん入っております。
難波くんが一番、私以外では登場が多いんですけど、この「ターナーの汽罐車」ではピアノソロを弾いてくれていますが、素晴らしいソロであります。
こういう難波くんのソロはですね、もう完全に自家薬籠中のという、そういうものでございます。
生ピアノはコンピューターではこの時代は再現がほとんど追いつかなかったので、生ピアノは本物を使っているという。
元々ドラマーなのドラムの打ち込みっていうのは結構、自分で好きでやっております、
この時代はローランドのD-110っていう音源モジュールがありまして、これは本当に優れた機械で、これをフルに導入して作っております。
ターナーの汽罐車

 

4曲目は「片想い」という、これもヘンテコな曲ですけれども。
若い頃はですね、女の子が色々口説かれて、逃げ口上として「私たち友達でいましょ」と。
山岸くん(番組ディレクター)も同じだと思いますね、ええ。
それがテーマです(笑)片思いの歌です。はい。
片想い

 

この時代は、今みたいに音を同時に鳴らすという機能がまだ不足していたので、例えばハイハットを入れて、スネアを入れて、ベースドラムを入れてみたいなことやるんですけど、それが全部バラバラに1個ずつ入れてかなきゃなんない時代で。
例えばテンポが気に入らないと、翌日にまた全部消してやり直すっていうですね、延々とそういう、あれで。
ヘッドホンをとか、1日8時間ぐらいつけていたら、なんか上の方がだんだん擦り切れてきたりして(笑)
今は一人きりで全部やる体力とか気力っていうのが、今はもうありませんで。
ないことはないんですけども、ハードウェアが全然違っちゃったんで。

昔、例えばファミリーコンピュータでしたら、音が4つしか出ません。フォーボイス。
それから色が16色だったんですけど。
それがもう90年代終わりになりますと、256音1670万色。今もっと多いでしょうね。
ですから、ソフト作るだけでも膨大な時間がかかるっていう。
音楽も同じで(笑)
今こういうことを1人っきりでやろうと思ったら、もう死んじゃうので(笑)
今はパートナーに協力してやってもらっております。


アルバム5曲目に入っておりますのが、カバーバージョンです。
「TOKYO'S A LONELY TOWN」っていう。
元々はトレードウィンズというグループの1965年のヒットソング「NEW YORK'S A LONELY TOWN」。
ニューヨークは寂しい街。これの替え歌です。
これを作ってるチームは、ピーター・アンダースとヴィニ・ポンシアという作曲家のチームでありまして。
この人たちがトレードウィンズというペンネームでレコーディングした曲であります。
これを、70年代に入りまして、イギリスのデイブ・エドモンズが「LONDON'S A LONELY TOWN」ていうタイトルで、ロンドンに置き換えて、レコーディングしまして。
じゃあ私も作ってみようと(笑)
これもこの時代はデジタルレコーディングなんで、生ドラムだといまいち雰囲気が出ないので、これも全部デジタルコンピューターでやっておりますけども。
CDだとちょっとですね、やっぱりその奥行きが、不満なんですけども、今回アナログLPだと結構いい感じに聞こえますので、ぜひアナログでどうぞ。
ジェフリー・フォスケット(注:ビーチボーイズのツアーメンバーのギタリスト)にこのトラック褒めてもらって、すごくうれしかったです(笑)。

TOKYO'S A LONELY TOWN


A面の終わり、CDでの6トラック目「飛遊人-HUMAN-」、
当時の全日空のCMで使った、ちょっとアカペラチックなトラックにピアノの弾き語りを加えて、レコード用にエディットしました。
この『ARTISAN』という アルバムは、アナログが出ない初めての作品で、それでもまだアナログのA面、B面という、その切り替えにこだわっていたので。
そこの境目として、なんか1曲欲しいというので、これを入れました。

飛遊人 -HUMAN-


CD7曲目も、アナログへのまた郷愁が残っておりますので、これがB面の1曲目というつもりで書いた作品であります。
このアルバムで唯一、生リズム。
全員生リズムで、しかも一発録りで録ってるというあれです。
昔から星が好きで、プラネタリウムとか見ていたんですが、ですので山とか行くと星眺めて、空見てるとなんか降りてくる、そういう幻影があります。未知との遭遇の世界ですね。
そういうことを歌にしたくて作った歌であります。
このアルバムはギターソロが4曲入ってるんですけども、全部自分で弾いてるという、そんなアルバム他にありません。恥ずかしながらという。
自分で結構好きな曲なんですけど、なかなかライブで再現が難しい1曲です。
SPLENDOR

 

この次はいわゆるモータウンビートですが。
60年代はニューヨークとかフィラデルフィアでこういうビートがたくさん使われまして。
私なんかはリアルタイムで聞いてましたので、そういう曲を書きたいなと思って作りましが。
これを生楽器でやると、なんかやっぱり時代がかった、わりとポピュラーなパターンなので。
フォーミュラって言いましょうか、そういうパターンなのでなんかちょっとこう古くさくなる。
ですの全面的にコンピューターミュージックで展開しているという。
ですが、さっきと同じで、生ピアノはやっぱり生じゃないとダメなので難波くんにお願いしていると。
MIGHTY SMILE

 

この時代、使っていたシンセのモジュールをいろいろといじくっておりましてですね、変な音が作れたので、それでなんか考えようと思って、じゃあファンクやってみようかと。
それ作った1曲であります。
最近は「オールドメディア」とか、「メディアの嘘」とかそういうような話題になっておりますが。
メディアのインチキさなんて昔から変わりませんから。
この時代だと全然バブル全盛期ですから、やっぱりそのプロパガンダって言いましょうか、誇大広告って言いましょうか、そういうもののすさまじさっていうのは、もう昭和の終わりっていう、そういう感じででありました。
なので、そういうようなことを題材にしてですね
「やらせ」"HYPE"「偽物」。QUEEN OF HYPEというタイトルでつくりました。
これ、結構気に入ってるんですけど(笑)
ちょっと音を詰め込みすぎっていう(笑)大いに反省してますね。
"QUEEN OF HYPE" BLUES

 

この アルバムは1991年のアルバムですけれども、前年、1990年に先行シングルとして発売されましたのが「ENDLESS GAME」というこの次の曲ですけども。
連城三紀彦さんの1989年の小説『飾り火』
これをドラマ化しました『誘惑』というドラマの主題歌としてで発売されました。
篠ひろ子さん、林隆三さん、紺野美沙子さん、宇都宮隆さん、もうドロドロの愛憎ドラマでありまして。
どうしようかなと。
作った曲がこの「ENDLESS GAME」という曲で。
私としてはちょっと異色な、作家性がまた出てしまったという。
これ作ったはいいんですけど、歌う時、私、声が明るいので、なんかこう、沈んだ感じにならないんですよね。
しょうがないから下向いて、いろんなこと試しましたけど、歌うのがとても大変だったという、その思い出があります。
でもドラマの打ち上げで皆さん色々お話できて、
特に脚本の荒井晴彦さん、私好きなので。
とても有意義な打ち上げがすごくいい思い出として残っております。
ENDLESS GAME

 

『ARTISAN』再発。アナログ盤とカセットの再発の特集でございましたが。
あれ、1曲足んないじゃないか。
このサンデーソングブックのエンディングテーマ「GROOVIN'」、ヤング・ラスカルズのヒットソングのカバーですけれども。
これがサンデーソングブックのエンディングテーマとして使われましたのが、1994年の4月からでございます。
ですの31年間エンディングテーマとして使われているこの「GROOVIN'」は、『ARTISAN』のラストソングであったわけでございます。めでたしめでたし。
GROOVIN'