おとのほそみち

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山下達郎サンデーソングブック2024年3月31日『フィリー・ソウルで棚からひとつかみ Part 4 「フィリー詣で」で棚からひとつかみ』

番組中の曲解説の主要な部分を書き起こしています。

1. 明日の私 / 竹内まりや 
2. DON'T LET THE GREEN GRASS FOOL YOU / WILSON PICKETT '71
3. TICK TOCK / CONNIE STEVENS '70
4. A MOTHER FOR MY CHILDREN / THE WHISPERS '74
5. MAMA CAN'T BUY YOU LOVE / ELTON JOHN '79
6. THE BEST OF BOTH WORLD / THE TEMPTATIONS  '80
7. IT'S GONNA TAKE A MIRACLE / LAURA NYRO '71
8. YOU MAKE ME FEEL BRAND NEW / 山下達郎  '86

 

3月は結局フィリー・ソウル三昧でいってしまいました。
いよいよパート4という(笑)
3月3日のひな祭り以降ずーっとフィリー・ソウルでやっております。

本日は、ここ3週間ずっとお聴きいただきました、70年代初期から80年代にかけてのフィラデルフィアのソウルの全盛期の魅力に色々な人が引き寄せられまして、フィラデルフィアのシグマサンドへ行って録音するという人たちが続出いたしまして。
ヒットしたものもありますし、しないものもありますが、そういうものから今日は選んでですね、フィリー・ソウルで棚からひとつかみPart4『フィリー詣で』で棚からひとつかみ、これで行ってみたいと思います。


3月最後の日であります。
昔も今もですね、地方都市から東京、大阪、大都市へ就職、学校のため、色々な目的でですね、大都市へ向かう方々がたくさん、お若い方が特にいらっしゃいます。
あとは転勤でですね、色々なとこに移るとか。
今から30年前に、竹内まりやさんは、それをテーマに「明日の私」という曲を書きました。
自分が学生の時にですね、東京へ出てきた時のそうした心情を歌に託して、あれからちょうど30年経ちました。
未だにリクエストたくさんいただきます。
明日の私 / 竹内まりや

 


フィリー・ソウルで棚からひとつかみ、Part4まできてしまいましたが、今日はちょっと毛色を変えまして、当時のフィラデルフィア・サウンドに魅せられるか、もしくは商売の匂いを感じて、そうしたシンガー、グループ、アーティストをフィラデルフィアに送り込んでヒットを作ろうという、そういうマネージャー、プロダクション、レコード会社。
そういうようなもので、成功したものもありますし、ダメだったものもあります。
出来も、玉石混交であります。
その中から私が好きなやつを今日はお聴きいただきたいと思います。
「フィリー詣で」で棚から一つかみ、まずはウィルソン・ピケット。
1971年、全米ソウルチャート2位、全米でも19位に上がるヒットソングで彼の代表作でもあります。

ウィルソン・ピケットはアラバマ生まれですがデトロイトへやってきて、ファルコンズというボーカルグループからソロになりましたが、また南部へも行きましてアラバマのマッスルショールズでヒット曲をたくさん出しました。
ちょっと低迷してきた時にフィラデルフィアに連れてこられて、ギャンブル&ハフのプロダクションでレコーディングをしました。
これが当たりましてですね。
だいたいフィリーのシグマサウンドのサウンドは、こうしたウィルソン・ピケットみたいなシャウター然とした人が、あまり合わない場合が多いんですけど、ピケットはですね、やっぱり一流の人なのでバッチリハマりました。
「DON’T LET THE GREEN GRASS FOOL YOU」大ヒットができました。
今日はこれから始めてみました。
DON'T LET THE GREEN GRASS FOOL YOU / WILSON PICKETT


いわゆる黒人シンガー、グループだけではなくて、白人のポップ系の人もですね、甘い音ですので、そうしたポップ・フィールドにすごくよく合います。
当時のフィラデルフィアの最も著名なプロデューサーはギャンブル&ハフ、そしてトム・ベル、それから、ここんところ聴いていただいてるスタン・ワトソンとかいろんな人いますけれども。
トム・ベルのところに行列ができるほどオファーが来ました。
そんな中からいろいろな作品が生まれます。
その一つでコニー・スティーヴンス。
女優であり、シンガーであり、私の大好きなシンガーですけども。
コニー・スティーヴンスがトム・ベルと組みまして、多分、アルバム分あるんだと思いますが、聴けるのは4曲だけなんですが、今。
70年に発売されましたB面なんですけども、こちらの方が今は人気が高い。
A面は「LA-LA (MEANS I LOVE YOU)」デルフォニックスの曲ですね。
こちらの方が圧倒的に人気が高い。
手に入れるのにすごい長い時間かかりましたが、今はCDで聴けます。
コニー・スティーヴンス、1970年のトム・ベルの素晴らしい名作「Tick-Tock」。
ヒットしておかしくない出来なんですが、全然ダメだったという、時の運といいましょうか。
TICK TOCK / CONNIE STEVENS


お次、ウィスパーズはウエスト・コーストのグループであります。
双子の兄弟で有名ですけれども。
1974年にMFSBのメンバー、ベイカー・ハリス・ヤングのプロデュースでアルバムを1枚出します。
『BINGO』というアルバムですが、ここからシングルカットされまして、全米ソウルチャート32位。
このアルバムは日本で出なかったんで、一生懸命、昔探しました。
この1曲目に入ってる大好きな1曲。
我々の世代ですと、ウィスパーズは本当にソラー・レーベルに移ってから80年代入ってから大ヒットがたくさん出て、それ以前は、ほとんどアルバムが出てないので、80年代入ってこういうのを必死に買い直したという、そういう思い出であります。
A MOTHER FOR MY CHILDREN / THE WHISPERS 


お次はエルトン・ジョンの登場であります。
エルトン・ジョンは1977年にトム・ベルと数曲フィラデルフィアでレコーディングをしまして、どういうわけだか79年まで出ませんでですね。
79年にEPで『THOM BELL SESSIONS』というタイトルで発売されました。
この中からシングルカットされた「Mama Can't Buy You Love」、これはベスト10ヒットになりました。
79年のことで日本でもかなりヒットしました。
エルトン・ジョンは「フィラデルフィア・フリーダム」なんていう曲がありますので、やっぱりイギリス人として、そうした東海岸での憧れとかそういうのあるんでしょうが。
なにせ、この「Mama Can't Buy You Love」、曲作ってんのはベル&ジェームズコンビの作品です。
他人の曲を歌うエルトン・ジョンというのはなかなか珍しい。
1979年のエルトン・ジョン「Mama Can’t Buy You Love」
ちなみにバック・コーラスはスピナーズだそうです。
MAMA CAN'T BUY YOU LOVE / ELTON JOHN


こうした具合に「フィリー詣で」というのがいろんな人がやっておりますけれども、モータウンのアーティストも随分ギャンブル&ハフとかトム・ベル、そうした人たちでフィラデルフィアでレコーディングやっておりますが。
正直申し上げてモータウン関係はあまり良い出来のがないんですよね。
例えばエディ・ケンドリックスとかですね。
それからジャクソンズも2枚ぐらい、ギャンブル&ハフでやってますけど、あんまりそれほどのっていう感じがします。
むしろヴァン・マッコイでニューヨークでレコーディングしたデビッド・ラフィンとか、そっちの方がいい出来が多いですが。
そんな中でですね、テンプテーションズが1981年に全面トム・ベルプロデュースでアルバムを1枚出しております。
ズバリ『THE TEMPTATIONS』というタイトルのアルバムですけども、これCD化されてないんで多分あんまり評判が良くないんでしょう
デニス・エドワーズのリードボーカルの時代でありますけれども、今日お聴きいただきますのは先週お聴きをいただきましたトゥルー・リフレクションの裏声を歌ってるグレン・レオナルドのリード・ボーカルによる1曲であります。
トム・ベルとリンダ・クリードのコンビの曲であります。
アレンジ、プロデュースbyトム・ベル
テンプテーションズ、1981年のアルバム『THE TEMPTATIONS』から
THE BEST OF BOTH WORLD / THE TEMPTATIONS

日本語載せたら良さそうな曲でありますけれども。
このテンプスのトム・ベルによるアルバムは、デニス・エドワーズのトラックだとやっぱりデニス・エドワーズの声が濃すぎてですね、なんかちょっとミスマッチっていう感じが否めませんが。
こちらのグレン・レオナルドさんの方は、スタイリスティックス風によくまとまっております。

 

Part1で結構申し上げましたが、フィラデルフィアのそうした音楽の傾向っていうのは、60年代の前ドゥ・ワップの時代からですね、ず~っと脈々と続いております。
ラジオの興隆とともに、ラジオそれからテレビですか、そうした興隆とともにフィラデルフィアの音楽のシーンというのが醸成されてきまして、60年代から例えばリトル・アンソニーとインペリアルとかですねチャビー・チェッカー、そういうようなたくさんの人がいます。
そういうのを聴いて育った人たちで、私もフィラデルフィアでやってみたいという人がたくさん出てきまして。
そんな1人がローラ・ニーロ。
ニューヨーカーでブロンクスの生まれですけども、それこそ、そうしたフィラデルフィアのミュージックがすごく好きで、聴いていた人。
自らの作品をシグマ・サウンドへ行って、ギャンブル&ハフでやりたいという望みが叶いまして71年にアルバムが出ます。
『It's Gonna Take A Miracle』
彼女の好きなカバーバージョンがたくさん入っているアルバムであります。
バックコーラスを務めておりますのがラベル。
パティ・ラベル&ザ・ブルーベルズからきましたラベル。
「Lady Marmalade」なんてヒット曲もありますが。
これをバックにLaura Nyro & Labelleというタイトルで、71年の末に、これはシングルカットされまして全米46位。
もともとはザ・ロイヤレッツのガール・グループのヒット曲、テディ・ランダッツォの名曲であります。
これのローラ・ニーロバージョンも素晴らしい。
IT'S GONNA TAKE A MIRACLE / LAURA NYRO

 

てなわけで「フィリー・ソウルで棚からひとつかみ」やってきましたが、私もフィラデルフィアのR&Bには、ものすごく影響を受けておりまして。
曲も本当に好きな曲がたくさんありまして、趣味が講じてアカペラでやったりしております。
今日の最後は『ON THE STREET CORNER 2』に入っております「YOU MAKE ME FEEL BRAND NEW」にリクエストくださいました。
フィリー・ソウルで棚からひとつかみ、4週に渡りましてご清聴ありがとうございました。
YOU MAKE ME FEEL BRAND NEW / 山下達郎