おとのほそみち

行きかふ歌も又旅人也



山下達郎サンデーソングブック 2021年11月07日『土岐英史 追悼』

達郎氏による曲の解説部分を書き起こしています(一部割愛)。ネットに楽曲データがあるものは張り付けていますが、オンエアされた音源とは異なる場合が多々あります。

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1. WATCHING OVER YOU / PEACH & APRICOT (竹内まりや & 杏里) 
2. あまく危険な香り (TV INST. VER.2) / 山下達郎 '82
3. WHEN SUNNY GETS BLUE / HIDEFUMI TOKI QUARTET "TOKI" '75
4. TOYLAND / NAOYA MATSUOKA & HIDEFUMI TOKI "PACIFIC JAM" '80
5. MINHA SAUDADE / TOKI & SAMBA FRIENDS "BRASIL" '81
6. IN THE WEE SMALL HOURS OF THE MORNING / HIDEFUMI TOKI "THE GOOD LIFE" '93
7. MY IDEAL / HIDEFUMI TOKI "THE ONE" '08
8. THE WAR SONG CODA (LIVE) / 山下達郎 "JOY" '89

 

先週、先々週と「ベタリク」でお届けしました。
たくさん、お便りを頂きまして、ありがとうございます。

で、今日はガラッと変わりまして、ずーっと気になっておりましたが、サックスの土岐英史さん、お亡くなりになりまして。
私は土岐さんとは、もう何年だ?40年以上いっしょにやって参りました。
意外なことにですね、レコーディングよりライブの方が圧倒的に多い。
レコーディングに参加した曲が、それほどめちゃくちゃ多いわけではないので。
むしろライブで一緒に行動を共にした方が多いので。
そうした思い出とか、そういうものと一緒にですね、今日は土岐さんの追悼特集、いってみたいと思います。

この番組のリスナーの方にとっては、土岐英史さんというのは、私のアルバムとかライブでの演奏でおなじみの方が多いと思いますが、土岐英史さんは、本来、純粋なジャズのサックスプレイヤーであります。
ソロ・アルバムもたくさんありますし、参加したセッションもたくさんございます。
その間に、いわゆる歌伴と呼ばれる、歌モノのレコーディングの間奏でありますとか、それから私のライブをはじめ、いろいろな人のライブの手伝い、そういうようなものをやっております。

本来はジャズのサックスプレイヤーであります。
ですので、こうした追悼特集やると、皆さんは私の作品の土岐さんのプレイを想定されていると思いますが、そういうことしません。
間奏までサックスソロ待って曲を聴くって、土岐さんの本意ではないので。
ですので、土岐さんのデビューしたころからのソロ作品を中心にですね、今日は純粋にジャズのプログラムで、曲もちゃんとした長さでお聴きをいただきます。
土岐さんのジャズ・サックスプレイヤーとしてのソロ・プレイをですね。
ただ、曲によっては7分、8分長いのもありますので、なるべくコンパクトにまとまった演奏の中から今日は選んで。
それでも、すばらしいプレイたくさんありますので、そうした中から選んで、お届けしたいと思います。

今日は、先週、先々週とは打って変わって、まじめなプログラムでございます。
土岐のオヤジは喜ぶと思います。
というわけで今日は、日曜日の午後のひと時、時間は夜の方がいいかもしれませんけれども、ジャズの時間になります。
本物のモダンジャズの時間になります。
日曜日の午後のひと時、ジャズでお楽しみいただきます『土岐英史追悼特集』
本日はジャズのスタンダード・ナンバーの珠玉のプレイと、そして最高のリマスタリングでお届けしたいと思います。

その前に。
竹内まりやさんと杏里さんがユニットを結成しましてPeach & Apricot。
相葉雅紀さん主演のドラマ『和田家の男たち』、テレビ朝日でただいま放送中でございますが。
これの主題歌であります「Watching Over You」
配信限定シングルとして先週から配信スタートしております。
作曲は林哲司さん、作詞が竹内まりや。
70年代、80年代テイストいっぱいの作品でございます。
私もギターで参加しております。
なので配信スタートしたばっかりの新曲をお聴きいただきたいと思います。
「Peach & Apricot」しかしてその実態は竹内まりや&杏里
WATCHING OVER YOU / PEACH & APRICOT (竹内まりや & 杏里) 

 

あまく危険な香り (TV INST. VER.2) / 山下達郎


土岐さんは、1950年生まれ、昭和25年生まれ
大阪音楽大学のあとにフルバンドのリードアルト、宮間利之とニューハード。
それからいろいろとセッションを重ねまして、1975年に実質的なリーダーアルバムを発表します。
『TOKI』という、そのままズバリ。
パーソネルは土岐英史さんのアルト、ソプラノ・サックス、ギターが渡辺香津美さん、ベースが井野信義さん、ドラムがスティーヴ・ジャクソンというカルテットの自分が好きな編成で。
今日お聴き頂く曲は「When Sunny Gets Blue」という56年に作られましたスタンダード・ナンバーです。
ナット・キング・コールで有名な一曲でございます。
その後の40代、50代のプレイに比べますと、おしゃべりなあれですけれど、既にもうスタイルが固まっております。
WHEN SUNNY GETS BLUE / HIDEFUMI TOKI QUARTET


時あたかも、ダジャレじゃありません。まじめな話。
時あたかも、70年中期は、それまでのストレートジャズから、だんだんいわゆるフュージョンと言われる、いろいろとクロスオーバーしていく音楽シーンになってまいります。
そんな中でスタジオ仕事でありますとか、人とのセッションとか、そういうものを、たくさんこなしていく中で、だんだん知名度が上がっていくわけです。
昔から土岐さんは、ブラジル音楽にものすごく傾倒しておりまして、そういうアプローチもたくさんあります。
そんな中でですね、ピアニストの松岡直也さんとのセッションが、とってもたくさんあります。
その中で名盤と呼ばれておりますが、1980年に発表しました松岡直也&土岐英史のクレジットによります『PACIFIC JAM』というアルバムがあります。
この頃になりますとフュージョン色が強くなってきております。
そのアルバムの中から「TOYLAND」。
この時期、かなり一緒に密接に付き合っておりましたドラマーのレオン・チャンクラー、バイロン・ミラーのベース
デヴィッド・T・ウォーカーの珍しく速弾きのソロ。
いい演奏でございます。
1980年8月のレコーディングなので、私の「RIDE ON TIME」の後なので、同じ音がしております。アルトの(笑)
TOYLAND / NAOYA MATSUOKA & HIDEFUMI TOKI


そうしたブラジルに対するアプローチをもう一曲。
翌年1981年に来日しているブラジルのミュージシャンとセッションをしまして。
土岐英史& SAMBA FRIENDSというクレジットで、ズバリ『BRASIL』というアルバム・タイトルで出しましたアルバム。
1981年のアルバムですが、この中に入っております、ジョアン・ドナートとジョアン・ジルベルトによる一曲「MINHA SAUDADE」。
MINHA SAUDADE / TOKI & SAMBA FRIENDS

 

この時代が一番、土岐さんと一緒にいた時代で、ずーっとツアーやっていた時代なので。
音がですね、この時代の音なんですよ。それがすごく懐かしいと言いましょうか(笑)
まぁ、毎日ツアーやっちゃあ、酒飲んで喋って、あるときは喧嘩してと、そういう時代でありました。
そういう中で、アルバム何枚も作っております。
このサンバ・フレンズのメンバーはライヴに連れてきたこともありますけれど、ポルトガル語で喋っているのかと思ったら、全然ポルトガル語が通じないと言われて、なんかそういう話をしておりました(笑)

土岐英史さんは冒頭にも申し上げました通り、例えば歌手のライヴのバックでありますとか、スタジオミュージシャンで間奏を吹くとか、そういうミュージシャンとは違いまして純粋なジャズのソロプレイヤーであります。
ですので土岐英史さんの追悼特集はですね、そうした歌ものかけても、あまり土岐さん喜ばないと思いますので、土岐さんのソロ作品、リーダー・アルバム、それから参加したセッションの、そういう作品で、きちっとしたですね、演奏形態をお聴きいただいております。
いつもと全く違うプログラムでございますが、今、radikoがありますので夜にお聴きいただくと、もうちょっとまたしんみりしていただるかと思います。

 

土岐英史さんとの出会いは1976年ごろまで遡ります。
村上”PONTA”秀一さんと高水健司さん、大村憲司さん、益田幹夫さん、このユニットで土岐さんがサックスを吹いていたところで知り合って。
いろいろ紆余曲折を経まして、自分が本格的な全国ツアーをやるときに土岐さんに声をかけましてですね。一緒にやってもらうことになりました。

いわゆるスタジオミュージシャンのプレイヤーっていうのを、僕はライブで使ったことがありません。
全部ジャズクラブで毎日吹いているような、そういう人たちに自分のライブをお願いしてきました。
その理由はですね、シュガーベイブ時代に所属していた事務所が、マネージャー同士が作った事務所でありまして。
山下洋輔さんのマネージャーと、向井滋春クインテットのマネージャーと、古澤良治郎クァルテットのマネージャーと、そしてシュガーベイブのマネージャーってのが一緒に組みまして事務所を作りました。
ですので毎日、毎日、そういう人たちのジャズ・クラブで演奏を見ておりまして、もともとジャズは好きで、ピット・インとかですね、高校の時からみておりましたので。
そうした現場のジャズクラブのジャズというのが、僕にとってはジャズなので。
スタジオで8小節吹いて帰ってもらうスタジオ・ミュージシャンというのは、あまりですね、しっくりこなくて。
自分のライブやるときにも、今までもずーっとですね、そうした現場で演奏してるホーンの人に頼んできております。
現在、一緒にやっております宮里陽太くん。
これが実は土岐英史さんの教え子なんですけれども、宮里くんも現場で吹いている人であります。

てなわけで、土岐さんのソロアルバムもストレートなジャズのプレイに溢れております。
今日はスタンダード中心、オリジナルはあまりかけておりません。
土岐さんのスタンダードの選曲っていうのが、これがまた不思議な曲ばっかりなんですが。
これからお聴き頂きますのは、1993年の『THE GOOD LIFE』というリーダー・アルバムの中に入ってる曲で、「IN THE WEE SMALL HOURS OF THE MORNING」という長ったらしいタイトルの曲であります。
「夜も深まって静まり返った頃」というようなタイトルの曲です。
1955年ごろに作られた曲で、フランク・シナトラがレコーディングしたのが最初だと言われおります。
これをお聴きをいただきましょう。
土岐英史さんのアルト、大石学さんのピアノ、いつもやってる人たちですね。
坂井紅介さんのベース、日野元彦さんのドラムという、クァルテットによる演奏。
この『THE GOOD LIFE』のアルバム、クレジットを見ますと、なぜかSpecial Thanksに私の名前が入っておりまして(笑)
なんで入ってんのかなぁ、という感じですが(笑)
IN THE WEE SMALL HOURS OF THE MORNING / HIDEFUMI TOKI


土岐さんのサックスとなんで長くやってきたかというと、何しろ私にとっては、サックスはですね、音色です。
フレーズとかいろいろありますけれど、やっぱり音が出たときの音色の美しさがないと管楽器は嫌だなという感じがします。
土岐さんは本当に音がきれいな人でありますので、それでライブだけではなくて、レコーディングでもたくさんお世話になりました。

もう一曲かかりますかね。
2008年のアルバムであります『THE ONE』というアルバム、この中に入っております「MY IDEAL」。
これは古い曲で1930年の作品で、ミュージカル映画の『The Playboy of Paris』という、モーリス・シュヴァリエ主演の、それの主題歌だそうであります。
どっから持ってきたのかという。
土岐さんのいちばん上のお兄さんがピアニストで、シャンソンのピアニストで有名な方でありますので、そのお兄さんの影響がすごい大きいと。
小さい時に、そのお兄さんがレコードを、たくさんかけていて、それでフランク・シナトラとか、そういうのを聴いたりとか、そういうような話をしておりました。
ですので、選曲もまたちょっと、いろいろなところから持ってきてるという。
で、これは、すごく長い曲なので土岐さんのソロのところまで。
ピアノの椎名豊さん、すいません。
ベースは先ほどと同じ坂井紅介さんで、ドラムは私の大好きな江藤良人さん。
このへんのセッション聴いておりますと、土岐さんのライブを昔よく観に行きましたアルフィーの空気が思い出されます。
 MY IDEAL / HIDEFUMI TOKI 


というわけで本日は、先日6月26日にお亡くなりになりましたサックスの土岐英史さんの追悼特集をお届けしました。
こういうジャズ・ミュージックは、本来はですね毎日演奏が繰り広げられておりますので、生で聴くともっと楽しいんですけれども。
そうした一瞬を切り取った、そうしたレコードというのは歴史に残っていきますので、本人が亡くなった後もこうやって聴くことができるわけであります。
心よりご冥福をお祈りしつつ、土岐英史さんの追悼特集でございました。

 

最後は、私、ほんとに長いこと土岐さんと一緒にライブをやっておりまして、たくさんの作品がライブソースとして残っております。
その中でも1989年に出しました私のライブアルバム『JOY』に収められております「THE WAR SONG」のコーダの3分数十秒のフレーズというのは白眉でありますので、今日は、そこの部分を切り取ってお聴きいただきます。
「THE WAR SONG」のライブ・バージョンのコーダの部分で、土岐英史さん追悼特集、おひらきにしたいと思います。
ご清聴ありがとうございました。
THE WAR SONG CODA (LIVE) / 山下達郎

 

<了>