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山下達郎サンデーソングブック 4月21日「男性裏声シンガーで棚からひとつかみ Part.1」書き起こし

達郎氏による曲の解説部分を書き起こしています。インフォメーションやリスナーからのメッセージは割愛しています。
ネットに音源があるものは張り付けていますが、オンエアされた音源とは異なる場合があります。

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番組の方は、二月に一度の聴取率週間です。

でも、二月に一度しても、しょうがないんでですね、今日は変なプログラムにしました。

『男性裏声シンガーで棚からひとつかみ』

男の人で、ポピュラーミュージック界で、裏声で歌う人、たくさんいますけども、そういうようなものを選んで、今日は『男性裏声シンガーで棚からひとつかみ』

これが聴取率週間に有効なのかなんて、知りませんよ、そんなの(笑)

で、これを思いつきまして選曲始めて、しまった!と。星の数ほどあるんですよ。
リストアップするだけで、もう頭痛くなって。

ですので、オールディーズの番組ですので、あんまり新しいものはかけません。
60年代、70年代、80年代、そういうような感じで選曲を致しました。

でも、ほんとに星の数ほどあるので(笑)
代表的なものですから、割とベタなプログラムになりますけれども、その分、曲の良さ、歌のうまさは折り紙付きでございます。
1週間じゃ間に合わないので、2週間やることにしました。

2週間やって、どうすんだ(笑)っていう意見も、ございましょうが。

男の人の裏声、迫力のある裏声、きれいな裏声。
いろいろでございますが、取り揃えて、お届けしたいと思います。

で、私は、日本のそうしたポピュラー音楽の世界では、裏声を比較的多用しています。
今は、もうちょっとスタイルが違うんですけども、70年代、80年代ではわりと珍しいパターン、歌を作ってきた人間でありますので、まずは、私の曲からお聴きを頂ければと思います。
1983年、アルバム「メロディーズ」から「悲しみのJODY」



 


「Hey There Lonely Girl/Eddie Holman」

今週はPart1なので、本当に裏声中心です。
「裏声とは何か」と、いろいろありますけど。
最近は「ヘッド・ボイス」とか「ミックスド・ボイス」とか、あとは「ファルセット」とかいろいろありますが、そういうことを説明する番組ではないので。
いわゆる「裏声」です。
我々が、ロックンロールの世界で裏声っていうものをですね、今日はもう理屈なしでいきます。

まずは、私の世代ではお馴染みのエディ・ホールマン。
ニューヨーク、フィラデルフィア、イーストコーストで活躍した、60年代のあたまくらいからですね。
10代の時からミュージカルなんかに出て、活躍してました。
今お聴きをいただきましたのは1970年春の、全米2位のヒットソング「Hey There Lonely Girl」
もともとは、ルビー&ザ・ロマンティックスのヒット曲で、それのカバーですが、これのヒットで一躍有名になりました。
エディ・ホールマン、私、大好きで、自分でもカバーしてライブでよくやっておりました。


我々の世代にとって裏声のシンガーは、何と言いましてもビーチボーイズのブライアン・ウィルソンです。すばらしい。この人も歌唱力があります。
1965年のアルバム『Summer Days』から至極の名曲「Let Him Run Wild」

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ロックンロール、R&Bの世界で、50年代あたりから裏声で歌う人が出て参ります。
多くは、ボーカルグループのトップをやる人です。
その人がリードも兼ねる形で裏声で歌うという。
ドゥーワップにそれが多く見られます。
その前は、ゴスペル・ミュージックとか、そういうのもありますけれども。
ですので、裏声中心に歌うスタイルのシンガーというのは、ボーカルグループから出てくる人が大多数です。

ですので、ボーカルグループのリードシンガーとしての裏声シンガーという人もたくさんおります。
この人は、そうした中でも日本で最も有名な一人です。
ラッセル・トンプキンス・ジュニア
スタイリスティックスのリードボーカリスト。
1974年のヒットナンバー「Let's Put It All Together」当時の邦題は「祈り」。


現代の裏声で歌う人と比べると、みんなタッチが強いですね。
この頃はまだマイクの性能とか、そういうものが、そんなに発達していなかったので、地声がちゃんと届く裏声なんです。
最近の人は、もっとマイクに近づけて、弱いニュアンスでもオケにのると。
そういうような録音技術が発達してきて、そういう具合になってきてます。
だから、歌ではありませんけれども、アール・クルーなんてですね、ガットギターの奏者でも、厚いオケに入っても負けないのは、そういうマイキングの技術とかですね、録音の技術が、そういう具合にさせていると。
レコードの中の世界が、そこでまた今までとは違う、生演奏とは違う世界が作られる。そういうようなものです。
この60年代、70年代は、そういう以前の時代ですので、やっぱりパワーが必要だと。


そういう意味では、今までのエディ・ホールマン、ブライアン・ウィルソン、ラッセル・トンプキンス・ジュニアと同じように、裏声で歌ってもパワーの塊でありましたのがフランキー・ヴァリです。
ザ・フォーシーズンズのデビューアルバム、1962年の『Sherry & 11 Others 』に収められております、もともとはリトル・ジョー&ザ・スリラーズの1957年のヒット、ドゥーワップソングで、これのカバーですが。
フォーシーズンズのカバーは非常に優れたカバーでして、のちにたくさん、それのさらにカバーをする人たちが出て参ります。1962年の「Peanuts」

 

 

今までお聴き頂きました、いわゆるプッシュプッシュ!と言いますか、パンチのある裏声からですね、70年代くらいに入って参りますと、だんだんソフトな歌い方、それは録音技術が発達して、それまでにない音像を作れるということで。
ソフトな歌い方。俗にいうスウィート・ソウルとかですね、そういうものに発達します。
例えばボサノバなんかでも、そういう録音技術の発展なしに語れない部分があります。
そんな中でシンガーもスタイルを変えていく人がいました。
そいう一人が、アイズレー・ブラザーズのリードボーカルでありますロナルド・アイズレー。
この人はシャウトするとすごいパワーがあるんですけども、裏声で歌っても、同様に表現力が出せるというオールマイティーなシンガーであります。
もう、なにかけてもいいんですけども。
有名なところで、1976年のアルバム『Harvest for the World』に入っております至極の名曲「Let Me Down Easy」

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裏声とは、そもそも何かとか調べたんですけども、なんか専門家がですね、いろんなこと言っておりまして。
私なんか、裏声といったらもう裏声だ!って。
ところが、ヘッドボイスとかミックスドボイスとかファルセットとか、用語の厳密さがなんか面倒くさくなって、やめました。
いいんです。
で、面白いもんですね、自分が裏声使うので、ヘッドボイスとかミックスドボイスとか、それがどうしたって(笑)
自分が歌えてアレなので(笑)
それが、だから、自分のスタイルがそうだからって、だからどうしたと。
ま、そういう感じですね。
理論と実践の違い。そういう感じがいたします。いいんです、聴いてよけりゃ。

昔、コーラスのスタジオミュージシャンやってたときに、ボイシングでちょっと迷ってたことがあって、その時に、有名なプロデューサーの人に「これ、どうしたらいいんですか?」と。
「そんなのね、聴いて気持ちよけりゃいいんだよっ!」
その一言で救われたんですよ。22の時ですけども。
それ以来、そういうものに、あんまりこだわらないようになりました(笑)
どうせ、ロックンロールですからね。アバウトなんですよ、ほんとに。


日本で有名なのは、レターメン。
男性のボーカルグループはですね、やはり下から上まできれいにレンジを広げようと思いますと、上の人はどうしても裏声になります。
そういうようなもののスタイルとしてバーバーショップとかオープンハーモニーとかいろんなのが、ありますけども。
レターメンもですね、地声とか裏声とか、いろんな曲があるんですが、裏声がきれいに響いている、そういう選曲じゃないとおもしろくないので。
今日はこれ、日本のみのヒットです。
東京FMがまだFM東京といっていた時代に「ジェットストリーム」が始まりまして、「ジェットストリーム」のテーマソングが「Mr.Lonely」という、フランク・プゥルセルですけれども。
FMが史上初、日本でオンエアされまして、非常に「ジェットストリーム」のテーマとして評判になりました。
東芝は、それでレターメンの「Mr.Lonely」のバージョンを日本で発売しました。
これが日本でたいへんヒットしまして。
日本以外ではチャートに入っておりませんけれども。
もともとは1965年のレターメンのアルバム『Portrait of my love』に収録されております。
もともとは、ボビー・ヴィントンのヒット曲ですけれども。きれいな裏声が聴こえます。「Mr.Lonely」



我々の世代にはお馴染みでございます。
レターメンのスタイルは、もともといわゆるグリークラブと言いましょうか、バーバー・ショップといいましょうか。リードボーカルのメロディの上にハーモニーを付けるという。
バーバーショップは、だいたい4人なんですけども、ベースがなくなったというのがレターメンのスタイルであります。
いわゆるカレッジで、たいへんに一般的なスタイルであります。
今でもバーバーショップのコンテストは、全米で毎年行われております。

この時代は、60年代、特に白人のシンガーはですね、地声から裏声にあげて、裏声から地声に戻していくという、そこの変化というか、ひっかかる感じを売り物にして、やっていた、そういう特徴がこの時代にありました。
今の、レターメンの「Mr.Lonely」にしましても、

♪ Lonely,I'm Mr.Lonely I have nobody~
この次の
♪ to call my own And I'm so lonely~

この戻るところですね。これが雰囲気を作るという感じであります。

R&Bですと、またちょっと変わってきます。 ニュアンスが。
そんな中で、R&Bの世界でウィスパーに近い裏声のニュアンスで、一番最初に画期的な実力を示したのが、スモーキー・ロビンソンです。
スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ
50年代から活躍しておりますけれども。モータウンで大成功しました。
ほんとにスモーキー・ロビンソンは一聴してわかる特徴のある歌い方、そしてすばらしい表現力を持った人です。
1965年のミラクルズの代表作「Ooo Baby Baby」

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スモーキー・ロビンソン、カーティス・メイフィールドなんかにもいえますけれども、もともとグループで歌ってた人が、ソロになりまして、のちの評論家とかがですね、そうした裏声のシンガーはグループで歌わないと真価を発揮できないと。ソロでやると弱くなると。そういう批判がずいぶんありました。今でもありますね。
ネットなんかみてますと、今のそうした柔らかい歌い方をするシンガーに対しての批判みたいのが、すごく見受けられます。

それは、さきほども申し上げた録音の変化でありまして。
今まで違った音像というのが作れるという。そういうものに合わせていく。
要するにニーズがあるので、そういうことになる。
時代は変わりますので。
いろいろ歌い方が変わっていくものをですね、「昔はよかった」と、単にそういうもので批判しないほうがいいかなって思います、私なんかは。

60年代、70年代で私の聴いてきた時代の裏声のシンガーをお届けしましたけども、そういう意味では、今のスタイルはちょっとそのころとは違います。
そんなようなものを最後に、ひとつ聴いていただきたいと思います。
ロビン・シック。
この人、上手いシンガーですね。
この人、お父さんもお母さんも芸能界なので、サラブレッドですね。作曲能力もありますし。
07年のこの曲いい曲でよく聴いてました。
これなんかは、ほんとにスタジオのレコーディングの密室感というのが、非常によく出ている。そういう歌い方でございます。「Lost Without U」


スモーキー・ロビンソンから40年の時間の開きがありますが、でも連綿と続いてる、共通点があります。


というわけで『男性裏声シンガーで棚からひとつかみ』、来週も引き続きパート2をお届けします。
悪のりになってきましたので、それだけ数が多いという(笑)
バランスよく、ロックンロール、R&B、こう散りばめてお届けして、来週も引き続きそんな感じで。

で、今は裏声で歌う人、たくさんいますけども、私が始めたころは、あんまりいませんでした。
1曲目にお聴きいただきました「悲しみのジョディ」、ああやって歌う人もいませんでした。当時はですね、そういうの誰もやってなかったので。
ま、差別化という意味で、そういう裏声で歌う曲をずいぶん作ってきました。

先日、キングトーンズの内田正人さんの追悼プログラムをやった時にお聴きをいただきました「Touch Me Lightly」
もともとは、キングトーンズに書いた曲ですけれども。
私の1979年の自分のアルバム「ムーン・グロウ」でカバーしております。

私版の「Touch Me Lightly」で、今日は『男性裏声シンガーで棚からひとつかみ Part.1』、ご清聴ありがとうございました。

<了>

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