おとのほそみち

行きかふ歌も又旅人也



松本隆トータルプロデュースの名作アルバム 裕木奈江『水の精』(1994)

裕木奈江さんは、1990年代に一世を風靡した俳優。

『北の国から'92巣立ち』では黒板純(吉岡秀隆)の子を妊娠し中絶。
翌93年の日本テレビ系『ポケベルが鳴らなくて』では友人の父(緒形拳)と不倫に陥るなど、衝撃的な役柄を演じながら、そのピュアな存在感でアイドル的な人気も得ていた。

歌手としては9枚のシングルをリリース。

『ポケベルが鳴らなくて』の主題歌は裕木さんだと、しばしば間違われるようだが、実際は国武万里さん。オリコン7位。

裕木さんの曲でいちばんヒットしたのは、93年の『この空が味方なら』、オリコン14位。

 

大ヒットこそなかったが、そのキュートで儚げで優しい歌声を評価する声は多かった。

 

アルバムも7枚リリースしている。

その5作目のアルバム『水の精』のトータルプロデュースと全曲の作詞を松本隆さんが担当している。

作曲家は細野晴臣さん、鈴木茂さん、筒美京平さん、矢野顕子さんらそうそうたるメンツ。

編曲も細野さん、鈴木さんのほか、大村雅朗さん、井上鑑さんら辣腕が並ぶ。

さらに、ミックスとマスタリングは名手、吉野金次さんなので、音像も鮮やかだ。

 

水の精

水の精

  • アーティスト:裕木奈江
  • ソニー・ミュージックレコーズ
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1. 月夜のドルフィン(作曲:松浦雅也 編曲:窪田晴男)
2. 宵待ち雪(詞:松本隆 作曲:細野晴臣 編曲:細野晴臣,コシミハル)
3. 恋人たちの水平線(作曲:鈴木茂 編曲:鈴木茂)
4. めかくし(作曲:楠瀬誠志郎 編曲:鈴木茂)
5. 空気みたいに愛してる(作曲:細野晴臣 編曲:大村雅朗)
6. 鏡の中の私(作曲:楠瀬誠志郎 編曲:鈴木茂)
7. すっぴん(作曲:筒美京平 編曲:大村雅朗)
8. サーブ・アンド・ボレー(作曲:筒美京平 編曲:大村雅朗)
9. 時空の舞姫(作曲:細野晴臣 編曲:細野晴臣)
10. 風の音(作曲:矢野顕子 編曲:井上鑑)


ジャケットからも想像がつくように、アルバム全体としての楽曲の印象はダウナーで、しっとり落ち着いた印象。

地味といえば地味だが、どこか引き込まれる雰囲気がある。

この作品を聞いて思うのは、最近のJ-popって、明るく元気な楽曲、メリハリの強い楽曲ばかりだなということ。

ダンスミュージック全盛だからということもあるけれど、訥々と語りかけるような人は本当に少ない。

音楽の市場環境のせいなのか、リスナーの嗜好のせいかのかわからないけれど、この『水の精』のようなアルバム、いまの時代にもあっていいと思う。

 


<了>