おとのほそみち

行きかふ歌も又旅人也



なぜ日本には「リナ・サワヤマ」のようなディーバが登場しないのか?

 

2023年1月、リナ・サワヤマ初のジャパンツアーが開催され、大好評のうちに終えた。

彼女の日本での人気に火がついたは2022年のサマー・ソニックでのステージだが、今回の来日でさらにその人気を広げ確かなものにした。

日本人である彼女が海外で成功を収め、日本でも喝采を浴びる。
これは感慨深い。

ベテラン音楽評論家の渋谷陽一氏はライヴ評で
「洋楽を中心に評論活動をしてきて約50年、そんな僕にとって歴史的ともいえるコンサートだった」と書いている。

私の知見は渋谷氏に及ぶべくもないが、その気持はよく分かる。

 

リナ・サワヤマは1990年、新潟で生まれ、5歳の頃に渡英。
それ以降、日本に戻ることなくロンドンをベースに創作活動を続けた。

当初は、ちょっと尖ったインディーな作風だったが、やがてメジャーでポップな路線に代わり、ステージもセクシーでダンサブルになった。

これが大当たり。
2022年9月16日にリリースされたセカンド・アルバム『Hold The Girl』は、日本人アーティストとして史上最高位となる全英アルバム・チャート3位を記録した。

喜ばしいし、誇らしい。

その一方で思う。

なぜ日本に「リナ・サワヤマ」は登場しないのだろうかと。

 

 

日本の音楽マーケットに若くて実力ある輝かしいディーバ(歌姫)は、久しく登場していない。

ここでいうディーバとは、歌やパフォーマンスに優れていることはもちろん、数万人の観客を前に常人にはないオーラを放つ女性シンガーを指す。

日本のポップス系のディーバは、大きく2つの系統があるとおもう。

ひとつはアイドル的なポジションからスタートし、キャリアを重ねつつ歌唱力やパフォーマンスが高い評価を得た人たち。
松田聖子、中森明菜、浜崎あゆみ、安室奈美恵らである。

もうひとつはシンガーソングライターの系譜。
松任谷由実、中島みゆき、椎名林檎、宇多田ヒカルらだ。

椎名林檎、宇多田ヒカル、浜崎あゆみらはすでに40代。
歌唱力に定評のある倖田來未、新妻聖子、水樹奈々も40代。

もちろん彼女たちは、変わらずエネルギッシュで、セクシーで、才気にあふれている。

言いたいのは、彼女らに続く世代に人材が乏しいということだ。

 

 

方や海外に海外を向けると、若く実力あるディーバが、わんさかいる。

テイラー・スウィフトはすでに大物の風格があるが、まだ30代前半。
椎名林檎より約10歳若い。

アデル、リゾ、SZA。
ビッグヒットを連発している彼女らは、みな30代前半なのだ。

20代の顔ぶれも華々しい。

アリアナ・グランデ、ビリー・アイリッシュ、オリヴィア・ロドリゴら多士済々だ。

 

 

それに比べて日本はどうにも寂しい。

現在のアイドルは言うまでもなくグループばかり。
国民的ソロアイドルは松浦亜弥が最後というのが、アイドル通の中での定説だそうだ。

エイベックスが倖田來未らに続いて推しているソロ歌手は安斉かれんだが、大きくブレイクしたとは言えない。

現在30代半ばの絢香西野カナがコンスタントに活動していたら、また違った風景が見えていたかもしれないが、シンガーソングライターでは、あいみょんの活躍ばかりが際立っている。

 

 

理由はなぜか。
すでに指摘されていることだが、日本の音楽事務所やレコード会社が、グループの育成とプロモーションに集中しすぎた。

それが悪いとは言わない。

ビジネスとしてのリターンを考えれば、むしろ当然だろうが、あまりに偏りすぎた。


2つ目の理由は、これらグループの卒業生に力のあるシンガーがいないことだ。
個人的にはこれが不思議だし謎だ。

AKBと坂道を合わせれば、メンバーはすごい人数なわけで、その中には歌ウマもいて当然だと思うが、シンガーとして大きくキャリアアップした人はいない。

卒業生で、歌手の分野でコンスタントに活動しているのは、山本彩生田絵梨花あたりだろう。

それぞれギターバンド、ミュージカルで定評があるが、そのカラーが強いだけに、ディーバの位置には距離がある。


3つ目の理由は、Adoに代表されるように、そもそもステージに立たず顔を見せない歌手が増えつつあることだ。
ステージで喝采を浴びることを目標としないなら、それもひとつの道であって否定する理由はない。
だが、観客の前で歌って感動させてこそ歌手、と思う人は私を含め少なくないはずだ。

 


ただ悲観しているわけでもない。

チカラのある20代ももちろんいて、シンガーソングライターとしてのあいみょんの才能は破格だし、長屋晴子は歌にも容姿にも華がある。

そしてアイナ・ジ・エンド

ディーバとしての高いポテンシャルを持ったこの異能のアイドルが、AKBや坂道など、いわば優等生集団からではなく、パンクを標榜する集団から生まれたことは、皮肉なようでありながら当然のことのようにも思える。