これもずいぶん古い話になってしまったので、若い人は知らないかもしれない。
1984年11月にリリースされた松田聖子の19枚目のシングル『ハートのイヤリング』がそれである。
そもそも佐野元春の名前ではリリースしておらず、Holland Roseという筆名だった。
これは佐野のラジオ番組宛のリクエストの中で、リスナーがHall&OatesをHolland Roseと書き間違えていたという説、モータウンのソングライティングチーム「Holland-Dozier-Holland」をもじったという説がある。いずれにしても遊び心には違いないが、なぜ佐野元春の名前でなかったのか、そのはっきりした理由はわからない。
曲はナイアガラの影響が色濃い。当時の佐野が大瀧詠一の影響を受けていたことは、よく知られるところで、大瀧の『A LONG VACATION』はロングセラーになっていたからレコード会社からもそうした方向でのリクエストがあったかもしれない。
ぶっちゃけ曲の出来は並み。前年『ガラスの林檎』でひとつのピークをつけた聖子の人気にも陰りが見え始め、やや勢いが衰えた時期の曲だ。
特に松本隆の詞が中途半端に思える。この曲が収められたアルバム『Windy Shadow』には、もう一曲佐野(Holland Rose)の手による『今夜はソフィストケート』という曲があるのだが、これはもうタイトルからしてピンとこない。
松本は長く聖子の作詞を手掛け、総合プロデューサー的な立場にあったようだが、このアルバムを最後にいったん手を引く。やるだけのことはやり、やや行き詰った感じがあったのかもしれない。
このあとに続くシングル「天使のウインク」「ボーイの季節」は詞曲とも尾崎亜美だ。佐野も曲だけではなく詞も書けばよかったのでは、と今さらながら思う。
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#この項おわり